「利他的衝動」

b0037269_23163057.jpgやっと墓参りに行けた。盆と彼岸には行きたいと思っているが、年々忙しくなってきてなかなか時間がとれない。彼岸のつもりが、いつも1カ月も2カ月も遅れる。1日で京都と滋賀の4箇所に参るのだが、体力的にもきつくなってきた。いずれ2日に分けて参らねばならないときが来るし、墓参り自体が不可能になるときも来るだろう。

1箇所はほかの誰も参る人のない墓だから、ぼくが参らなくなった時点で無縁墓になってしまう。それだけは避けたいが、永代供養やらそんな気のきいたもののない墓だし、ぼくには自分の後に長い供養を頼めるような人はいない。いやそんなことよりも、ぼくの戒名が刻まれた石ころが無縁墓となって雨風に晒されるままになることもそれほど先ではないだろう。それは仕方のないことだ。

幼いころ、祖母は毎月、祖父の命日が近づくと墓参りに行ったものだ。墓へ続く道には急な坂道があって、花やらお供えものやらをどっさり積んだ乳母車を祖母が押し切れなくなると、ぼくが代わって押した。その坂道は残っていて、いまでもそこを通る度に誇らしい気持ちになれる。祖母は頼みごとをしない人だった。人に頼むぐらいなら、自分でなんとかしようとする人だった。そして愛情に深い人だった。ある宗教家が「利他的衝動」という言葉を使っていて感心したことがあるが、思えば、祖母の行為は一種の衝動と言えるほどに強い動機から生じていた。この人のすさまじい愛情がなければ、ぼくがここに存在することもなかっただろう。見事な人だったが、ただひとつ解せなかったのは、極道の息子にさえその愛情を惜しみなく与えたことだった。それは結果としてぼくを苦しめ続けることになった。

人に頼みごとをしない祖母だったが、たったひとつ、くりかえしぼくに頼んだことがある。「(自分が死んだ後も)おじいさんの墓参りに行っちゃって(行ってあげてください)」ということだった。けっきょく、自分のことはなにひとつ頼んでいないのである。

by enzian | 2009-04-19 23:31 | ※山河追想 | Trackback | Comments(32)

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Commented by bucmacoto at 2009-04-20 08:15
enzianさんの こころのたからもの なのだと感じました。
なんだか沁み入るおはなし、ありがとうございました m(_ _)m
Commented by non at 2009-04-20 09:23 x
閑人なので・・・
お墓参りは 真面目に行っておりますが~
近ごろは 父の墓に行くと こうやって母と一緒にお参りできるのもあとわずかなのだろうな~と哀しくなり
義父の墓へ参ると そのうち いつか夫もここに入るのだろうな(自分が長生きするつもり)と やはり寂しい気持ちになってしまいます。

enzianさんのおばあさまの唯一のお願いですもの
お墓参りだけは 是非頑張って~
Commented by gauche3 at 2009-04-20 13:46
> いまでもそこを通る度に誇らしい気持ちになれる。
なんだか・・この気持ち良く分かります・・
僕も小学校低学年の頃、一人暮らしの祖母の家に年中
遊びに行っていて、良くインスタントラーメンを作って
いました。今でもインスタントラーメンを煮ていると、
何だか誇らしい気持ちになることがあるんです。
坂道の話より風情に欠ける話で恐縮ですが・・(^^ゞ

> 極道の息子にさえその愛情を惜しみなく・・
誰も認めてくれなくても・・そうであるが故に、せめて
自分だけは愛してゆこうとか、認めてゆこうと思うこと
があるのでしょうか・・僕は母が亡くなって数年経って
から、ふとそんな思いに到りました。

> 自分のことはなにひとつ頼んでいないのである。
いいですね・・お祖母様。
いつか何処かでお会い出来たら、enzianさんを肴にして
お酒を酌み交わしたいものです・・(笑)
Commented by enzian at 2009-04-20 21:49
bucmacotoさん

>こころのたからもの なのだと感じました。

こちらこそ、ありがとうございます。^^
Commented by enzian at 2009-04-20 21:55
nonさん

そうですね。
お墓参りには一抹の寂しさ、
哀しさがつきまといますね。

>enzianさんのおばあさまの唯一のお願いですもの
お墓参りだけは 是非頑張って~

ありがとうございます。
(`_´)ゞ頑張ります!
Commented by enzian at 2009-04-20 22:04
猿夫さん

>今でもインスタントラーメンを煮ていると、
何だか誇らしい気持ちになることがあるんです。
坂道の話より風情に欠ける話で恐縮ですが・・(^^ゞ

いえいえ、なにがちがうことがありますか。
まったく同じだと思います。
(正確に言えば、インスタントラーメンを煮ることの
方が勇気が要ったことだと思いますから、
価値があると思います。)

>誰も認めてくれなくても・・そうであるが故に、せめて
自分だけは愛してゆこうとか、認めてゆこうと思うこと
があるのでしょうか・・僕は母が亡くなって数年経って
から、ふとそんな思いに到りました。

それは可能性としてあると思います。
ぼくもそんなことを考えたりするのです。
そして、また違う考え方として、
誰が認める認めないなんてことはまったく関係ないこととして、
愛せずにはおれないのが息子だったのかもしれません。
どちらであったか‥‥いまでは確かめるすべはないのです。
Commented by enzian at 2009-04-20 22:05
猿夫さん、続き

>いつか何処かでお会い出来たら、enzianさんを肴にして
お酒を酌み交わしたいものです・・(笑)

ぼくは猿夫さんを肴にして飲みたいですね。^^
いつか飲む機会があると思っています。
それと、次回の猿夫さんの詩集の表紙には
ぜひ、ぼくが撮った写真を採用してください。^^v
Commented by kaori--y at 2009-04-20 22:50
↑ではワタクシに挿絵を描かせてください(^^)♪
(猿夫さんへのコメントに便乗&横レス^^)

スーパーでコーンフレークを見るたびに、
しなしな学会に思いを馳せてしまう今日この頃です。

enzianさんはおばあさまに救われたのですね、きっと。
おばあさまは人を憎んだり、切り離したり、捨て置いたり
できない方だったのかもしれないですね・・・
掬いあげたい、っていうお気持ちかなぁ・・・
それとはまた違うものかもしれないのですが
一本の草花に向けられたenzianさんの視点に
共通するものを感じるのです。
Commented by coeurdefleur at 2009-04-20 23:19
ほんの些細なことが人を幸せにしたりするんですね。
お祖母さまにしてみれば特別なことではなく、
ごく自然に振舞っていたことがenzianさんには大きく影響していて、
それがほんわりと心を包んでいるような。
Commented by enzian at 2009-04-20 23:42
柊さん

>お祖母さまにしてみれば特別なことではなく、
ごく自然に振舞っていたことがenzianさんには大きく影響していて、

そうだと思います。
ぼくはわざとらしいこと、おおげさなことが嫌いですから、
かえって自然なこと、控えめ目なことに
決定的な影響を受けてしまいます。
Commented by enzian at 2009-04-20 23:49
かおりさん

やっぱりコーンフレークはしなしなでないと
いけないと再確認する今日この頃です。

>enzianさんはおばあさまに救われたのですね、きっと。

そうですね。
当時はどうしようもない人は切り捨てればよいのにと
思ったものですが、今から思えば、
誰が相手でも一貫していました。

>一本の草花に向けられたenzianさんの視点に
共通するものを感じるのです。

きゃーわかる?\(-_-)ピシッ
(それがいかんちゅうねん。)

>ではワタクシに挿絵を描かせてください(^^)♪
(猿夫さんへのコメントに便乗&横レス^^)

ぎゃー、ぼくがエッセイ集を出したときも(出すのか?)、
ぜひぜひかおりさんが挿絵を描いてください!!
(祖母の孫は頼み事をするのである。^^)
Commented by kaori--y at 2009-04-21 00:28
>ぎゃー、ぼくがエッセイ集を出したときも(出すのか?)、
ぜひぜひかおりさんが挿絵を描いてください!!

ハイホー♪ (^。^v (←軽っ)
ワタクシでよろしければ!

>(祖母の孫は頼み事をするのである。^^)

かくして人類は進化の一途を辿るのでありますネ。^^
Commented by enzian at 2009-04-22 22:15
かおりさん

>ワタクシでよろしければ!

やたっ!^^v

>かくして人類は進化の一途を辿るのでありますネ。^^

そうそう。
人間は先人の経験を生かす動物なのです。^^
Commented by gauche3 at 2009-04-22 23:50
> どちらであったか‥‥
確かめたいような、確かめたくないような・・
自分だったらそんな気持ちかも知れません。

> それと、次回の猿夫さんの詩集の表紙には・・
数年後だと思いますが・・(笑)
その節はよろしくお願いします^^

実は、enzianさんが以前アップされていた鴨川沿い
の雨粒の写真がかなり気に入っていて、レイアウト
を考えてみたりしておりました・・(^^ゞ

挿絵は、かおりさんですね^^
マザーグース系の詩をかかねば・・
(と、勝手に妄想を始める・・)

この記事とは関係無くて恐縮なのですが・・
不可知論について、とても解り易く書かれた書籍って
ありますか?
Commented by seedsbook at 2009-04-23 04:55 x
素敵なおばあさまでしたね。
良いお話読ませていただきました。
↑コメント蘭から。。。

>ぎゃー、ぼくがエッセイ集を出したときも(出すのか?)

ぜひぜひエッセイ集出してください。
楽しみです!
Commented by enzian at 2009-04-23 22:42
猿夫さん

>実は、enzianさんが以前アップされていた鴨川沿い
の雨粒の写真がかなり気に入っていて、レイアウト
を考えてみたりしておりました・・(^^ゞ

そうだったのですか。
どの方がどんな写真に興味を示されるかというのは
まったくわからないものですね。
これはダメだろうと載せたのが
意外を好評だったりします。

写真はまだまだ初心者なのですが、
少しずつよい写真が撮れて、
猿夫さんにも気に入ってもらえるような
のが撮れればな、と思ってます。^^

>マザーグース系の詩をかかねば・・
(と、勝手に妄想を始める・・)

こちらはこちらで、
不思議のアリス系の哲学エッセイを書かねば、
と、とてつもない妄想を始める‥‥^^;
Commented by enzian at 2009-04-23 22:43
猿夫さん、続き

>不可知論について、とても解り易く書かれた書籍って
ありますか?

お答えできるなら喜んでお答えするのですが、
ちょっと答えにくいのです。

というのも、不可知論というのは、
その最も一般的な意味で言えば、
対象が存在するか否かを度外視して、
そもそもそれを認識することができない、
ということなのですが、そのような考え方は、
とても古い時代から、ありとあらゆる立場から
至るところにあった考えだからです。

お役に立てず、すいません。
Commented by enzian at 2009-04-23 22:48
seedsbookさん

>良いお話読ませていただきました。

ありがとうございます。
祖母に礼を言っておきます。^^

>ぜひぜひエッセイ集出してください。
楽しみです!

seedsbookさん、猿夫さん、かおりさん、
3冊は売れるかな‥‥(パチパチ←そろばんをはじいている^^)
Commented by 907011 at 2009-04-24 06:16
春の農繁期。
身体は疲れていても、自分にとっての農業ってやはり精神的な歓びがあるなあと感じています。

鳥の声と風の音以外何もない静かな畑で、
疲れてぼーっとしながら夕焼けを見ていると、
時々自分がいる場所がよくわからなくなります。
それは決して悪い気分ではなくて、俯瞰のような、脱力のような。

彼岸。
あの世とこの世。
身体が疲れて麻痺することで、
境目がぼんやりする感覚は好きです。

わからないから祈るんだなあと思います。
Commented by enzian at 2009-04-24 22:50
907011さん

幼いころは田植えやら稲刈りを手伝ったものですが、
いまはその感触をほとんど忘れています。
腰が痛かったことは覚えているかな。^^;

久しぶりに戻っての農業でしょうか。
境目がはっきりしなくなる体験というのは
一種の快感なのかもしれませんね。
Commented by gauche3 at 2009-04-25 00:10
enzianさん、ありがとうございます^^

少し前に観た映画で、「僕は不可知論者だ」というくだり
があって、ネットで色々と検索して見たのですが、どうに
も分からないことばかりだったので・・

> とても古い時代から、ありとあらゆる立場から
> 至るところにあった考えだからです

あぁ・・なるほど・・と勝手に思いました(^^ゞ
それであれば、解り易い書籍などは無いと思いますし、
より深い内面で感じるところから発さないといけない
言葉なのかも知れませんね・・

ありがとうございます^^
Commented by enzian at 2009-04-25 00:21
猿夫さん

お役に立てず、すいません。

>あぁ・・なるほど・・と勝手に思いました(^^ゞ
それであれば、解り易い書籍などは無いと思いますし、
より深い内面で感じるところから発さないといけない
言葉なのかも知れませんね・・

その言葉が使われた前後の文脈がわかれば、
参考書を読まずとも、
きっと猿夫さんなら意味がわかると思いますよ。^^
Commented by 座敷童 at 2009-05-01 01:45 x
お墓というと、私の気も重くなります。
座敷童の一族は我が道を行く人が多すぎて宗教がバラバラなのです。
(宗派ならまだしも・・・)
なのでお墓参りはほぼ、ピクニック状態です・・・。
一日で四つの宗教を回るのって、結構お花とか選ぶの大変ですよ。

たぶん、極道でも変わり者でも、おばあちゃんにとっては
enzianさんが一番、濃い血と愛情を注いだ
誇りがあったからだと思います。
きっと、ずっと義務にする事ではなく、一度でも
そこに触れてくれる事が、想像できなかったほど先の
未来の幸せだと、誓って欲しかったのかな、と思いましたよ。

最後の一人になるって、(血族の)ちょっと背筋が伸びますね。
Commented by 毒きのこ at 2009-05-01 23:35 x
道を極めたのは・・・

実のところ

おばあさま

であるような

気もいたしました

孫に息子に夫に・・・

守り抜くこと

あっぱれ、です
Commented by enzian at 2009-05-02 22:57
毒きのこさん

なるほど、そういう表現ができるかもしれませんね。
山田君、毒きのこさんに座布団一枚。^^
Commented by enzian at 2009-05-02 23:56
座敷童さん

>一日で四つの宗教を回るのって、
結構お花とか選ぶの大変ですよ。

自分の子孫に、手向ける花をあれこれ
限定するなんてことがあるのなら、
本当にばかばかしいことですね。
なんのための宗教かと思います。

>enzianさんが一番、濃い血と愛情を注いだ
誇りがあったからだと思います。

ありがとう。
3回ぐらい生まれ変わっても
使い切れず余るぐらいの
愛情は注いでもらったかもしれません。^^
Commented by coeurdefleur at 2009-05-03 22:13
あら、奇遇です。
無神論に無宗教、不可知論者などについて読み漁ってきたところです。

私は去年入院する前に、樹木葬にして欲しいと息子に遺言しておきました。



エッセイ集私も買わせていただきますよ~^^
Commented by enzian at 2009-05-03 23:35
柊さん

>無神論に無宗教、不可知論者などについて読み漁ってきたところです。

なぜまたそんなテーマを‥‥^^;

>樹木葬

柊さんの好きな生き物たちがたくさん来てくれるでしょう。^^

>エッセイ集私も買わせていただきますよ~^^

やった、これで4冊は売れる。^^
Commented at 2009-05-04 09:12
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by enzian at 2009-05-04 16:06
鍵コメさん

>月面散骨

いえいえ、これからまだまだお安くなるかもしれませんよ。ww

>5冊目

ありがとうございます。
これで一束分は売れる、と安心しました。
(束売りするのか?)

>ID/URLの拒否

まさか、そんなはずはないです。
昨晩から続いているエキサイトの不調によるものでしょう。
Commented by kaori_tochiu at 2009-05-19 21:28
蒸し返すようで恐縮なのですが。

「挿絵を描くからには20冊くらいノルマがあるのかな、
がんばらなくっちゃ~♪」
と思って(=妄想して)おりました。
(^。^v
Commented by enzian at 2009-05-20 22:44
かおりさん

そうですよ。
挿絵担当者はノルマが重いのです。^^
25冊売れればもうけが出るかな~
(どんな本なんだ。)

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