消耗戦

「この春、ほんとうに大学を辞めようと考えていたのです」。出張に居合わせた同僚がしみじみ語った。「どうしたのですか?」「体がきつくてきつくて、研究もできませんし」。ぼくが秘かに学生思いのすばらしい教員だと思っている人だった。奥さんと話しあって、けっきょく、自分にはこれ以外の仕事もできないないだろうし、今回は辞めるのを思いとどまったという。こんなすばらしい教育者が、まじめに仕事を引き受けるがゆえにやめざるをえない大学というのはどういう機構なのだろうかと思う。

多くの有能な教員を見送ってきた。いずれも研究をあきらめられない人たちだった。ぼくは自分の研究をすることは半ばあきらめているから、そういうこともあまり考えなかったが、そうとばかりも言えなくなってきた。誰だったか、認知症になった父親を自分で介護していた人が、敬愛し続けた父親であったが、痴呆がひどくなって疲労の極限にたっしたときに「もう私はこの人を愛せない」と思って、施設に預けることになったと言っていた(一般論として、自分で介護し続けることがよいことだと言っているのではない、念のため)。今日、ひとつの仕事を区切ったときに、しばらく意識を失った。さすがに限界かもしれない。

by enzian | 2009-11-27 23:10 | ※キャンパスで | Trackback | Comments(4)

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Commented by gauche3 at 2009-12-07 17:24
大学の内部・・(しばし・・妄想中・・)
何だか恐ろしい場所のような気がしてきました・・
(((( ;゚Д゚))))ガクガク
enzianさんも、無理なさらないようにしてください。

> 「もう私はこの人を愛せない」

「もう」とか「この」という言葉の中に、その方の
思いが打ち込まれているように感じました・・
先日お酒をご一緒した方も、祖母⇒母⇒父と15年間
介護を続けて、それぞれを看取ったと仰っていまし
たが・・僕にはとても出来ないような気がします。
Commented by enzian at 2009-12-07 21:51
猿夫さん

>大学の内部・・(しばし・・妄想中・・)
何だか恐ろしい場所のような気がしてきました・・

おそろしーですよー
こわいぞー^^

>「もう」とか「この」という言葉の中に、その方の
思いが打ち込まれているように感じました・・

おっしゃるとおりだと思います。
「もう」「この」も、自分の思いを打ち込んだ
くさびだと思います。
打ち込まざるをえないものがあったのでしょう。

>僕にはとても出来ないような気がします。

立派な方ですね。
ぼくにもまったくできないように思います。
Commented by Art-Chigusa at 2009-12-30 19:32
何の研究をなさっていらっしゃるのですか?
きっと凄く価値のある仕事をされているのだと思います。
私はイタリアのペルージャで生活していますが、イタリアはお金がないので、大学の研究費も削られて、研究したくても、研究できない人が多く、給料が少なくて生活ができなくなるから、アメリカなどに優秀な人材をとられている状態で、問題になっています。
頑張ってください。
Commented by enzian at 2009-12-30 21:15
Art-Chigusaさん

私の専門は「哲学」です。
それでは哲学とはなにか‥‥などという話になると、
ややこしくなってしまうのですが。

>アメリカなどに優秀な人材をとられている状態で、
問題になっています。

日本でも、研究ができないと、
比較的研究時間をとれる大学を求めて移動する
人もおられますが、もう日本の大学で研究時間を
確保するのは無理だとアメリカに行く人は
やはりおられます。

ありがとうございます。

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