「プランクトン」

b0037269_1740485.jpg新聞を読んでいたら、『科学』と『学習』が廃刊されると書いてある。それを見た瞬間、自分でも驚くほど淋しい気持ちになった。

小学校の一時期、学研から刊行されていた二冊を定期購読していた。裕福な家ではなかったから、ずいぶん無理をしてくれたのだと思う。後にはお金がかかるということで講読を諦めることになるのだが、それを告げたときの母の淋しそうな顔はいまも覚えている。特に『科学』はお気に入りで、毎月送られてくる付録の実験セットには胸ときめいた。

ある月の付録はプランクトンの飼育セットで、プランクトンを育てるのが楽しくてしかたなかった。親になった気分でかいがいしく餌をやっていたのだけど、何匹かは死なせてしまった。そんなことを作文に書いたら、思いがけなく新聞に載ることになってしまった。ぼくは自分の文章が人目に触れるのがイヤで、クラスの仲間にも、家族にも黙っていた。ある朝、学校に来ると友人たちが騒いでいた。「○○の顔、別人みたいに写ってたで」。自分のことを言っているらしい言葉をただぼんやりと聞いていた。家族はなにも言わなかった。家で講読していたのは別の新聞だったから、ばれずに済んだと胸をなでおろした。

郷里を出ようとして、母の遺品を整理していたときに、タンスから大きな額が出てきた。額なんかには縁(えん)のない家だったからなにごとかと思えば、茶色く変色した新聞の切り抜きが入っている。そこには誰かわからない少年の顔写真と、見覚えのある題の文章が載っていた。そのときはじめてぼくは自分の記事を見たのだった。知っていたのか‥‥でも、ほとんど文字の読めなかった母は読めたのだろうか‥‥。あのときよりもさらに茶色くなった切り抜きは同じ額に入ったまま、この部屋に置いてある。

by enzian | 2009-12-12 17:49 | ※山河追想 | Trackback | Comments(15)

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Commented by kaori_tochiu at 2009-12-21 16:55 x
自分発の仕事は一段落して、明日から年明けまではお気楽な季節労働(郵便局のアルバイト)が始まりまーす。

絵本の記事への感想です。

消えるという名のおばあさんは
元居た場所へ帰って行ったんですね。なんとなく、
居るべきところへ戻れたんだね、
という感じがしました。
それに、月を見つけたときよく最初に出る言葉が「あっ」で、
それが名前だったということは、ほんとうの姿は最初から
分かっていたんだなぁ、という感じがしました。
何者なのか、居るべき場所はどこなのか、
見つかったんだな、分かっていたんだな
ってそういう感じがする詩だなぁ、と思いました。
下に紹介されていた鳥のお話はその逆な感じ。
すごく悲しいことだけど、泣いていいか分からないことは
たくさんあるような気がします。

という感想なのでした。
(詩の解釈は猿夫さんを待ちたい気もするのですが。。。^^)

お忙しそうですね。お体大切に~^^
Commented by enzian at 2009-12-21 21:40
かおりさん

一段落しましたか。
年々、展示とかの企画が多くなっていくような気が‥‥^^

>季節労働

^^、ぼくも、学生時代お世話になりました。

>消えるという名のおばあさんは‥‥
下に紹介されていた鳥のお話はその逆な感じ。

すばらしい感性ですね。
いつもながら、かおりさんの感性には驚かされます。
おもしろく、納得しながら読ませてもらいました。^^v

>すごく悲しいことだけど、泣いていいか分からないことは
たくさんあるような気がします。

そうですね。
残念ですけど。
Commented by gauche3 at 2009-12-24 22:13
詩の解釈って・・本当に人それぞれですよね。
かおりさんの解釈にも、思わず唸ってしまいました。

僕自身は(妄想を膨らませ過ぎる傾向もあり(^^ゞ)、
おばあさんの詩は、女性は幾つになっても女性である
ということを、女性の象徴的な存在でもある月を使っ
て表現されたのだろうか・・などと思いました。
月の満ち欠けは、生と死の繰り返しも連想させますが、
なんというのでしょうか・・もう少し生に近い色気のよう
なものをこの詩に感じます。

鳥の詩はですね・・
ある日、「お母さんが変わった」と父親から告げられ
た子供の心情が綴られているように思いました。
「はて・・では・・誰のために僕は泣くのか?」
という気持ちも含まれているような・・

子供の頃に、「シーモンキー」というミジンコ(?)
を育てたことがあります・・(^^ゞ
Commented by enzian at 2009-12-25 11:39
猿夫さん

お見事でした。m(_ _)m

>子供の頃に、「シーモンキー」というミジンコ(?)
を育てたことがあります・・(^^ゞ

なにを隠そう、ぼくが育てたのも、シーモンキーです。
・_・)/\(・_・)シーモンキーナカマ!
あれは「アルテミア」という名の生き物で、
プランクトンの一種なのです。^^
Commented by gauche3 at 2009-12-25 20:49
> なにを隠そう、ぼくが育てたのも、シーモンキーです。
> ・_・)/\(・_・)シーモンキーナカマ!

なんだか・・微妙すぎるナカマですね・・(笑)
シーモンキー道においてもenzian先生に免許皆伝を
頂けるように・・頑張らねば・・(-_-;)

> あれは「アルテミア」という名の生き物で、
> プランクトンの一種なのです。^^

し・・知らなかった・・
「アルテミア」というんですね。
松本零士先生を連想してしまいました(^^ゞ
「アルカディア」でしたっけ・・
Commented by enzian at 2009-12-25 21:52
猿夫さん

シーモンキー同士よ。(同士になってるぞ。^^)
じつは、鍵コメさんのなかにも
シーモンキーを飼育した方がおられて、
シーモンキー飼育組は3人なのです。

トリオ・ザ・シーモンキーとか組みましょうか?^^

>松本零士先生を連想してしまいました(^^ゞ
「アルカディア」でしたっけ・・

松本零士ならヤマトが好きです。
デスラーの青い肌が魅力的でした。^^;
Commented by Art-Chigusa at 2009-12-30 19:25
・・・涙が出てきます。私も学習と科学をとっていました。廃刊になったとは・・・
母は常に母ですね・・・いいお話をありがとうございました。
Commented by enzian at 2009-12-30 21:27
Art-Chigusaさん

>私も学習と科学をとっていました

・_・)/\(・_・)ナカマ!ですね。^^

>母は常に母ですね・・・

正しく、ですね。
母は母としか表現できません。^^
お読みいただき、ありがとうございます。
Commented by madeline_madeline at 2009-12-31 22:07
いいお話です…
感動してしまいました。
(余談ですが…私は『科学』のみの購入でした。← 母の考えで^^;
私は『学習』の方がよかったのになっ。)

母は、母なのですね…
私も母になり、母の偉大さをしみじみと感じております。

素敵なお母様ですね。
ご自慢でしょう。
そんな母親に私はなりたい…です。
Commented by madeline_madeline at 2009-12-31 22:08
あ、書き忘れてもうた…
来年もよろしくおねがいします ♪ ^^
Commented by enzian at 2009-12-31 22:18
まださん

おほめにあずかり、ありがとうございます。
母にほめられたとよ、と伝えておきます。^^

まださん、お茶をなさっていたのですね。
侘助という純白の椿がありましたね。^^

こちらこそ、よろしくお願いします。
Commented by at 2010-01-03 03:39 x
こんにちは

『科学』と『学習』...懐かしいですね

拙者は 「風向風力計」や「ピンホールカメラ」など
《道具系》の付録に そそられました
寺山では
芝居や歌 映画などのほうが 近距離にあります

こちらにきて 記事にふれることで
自分の好みの傾向が あぶりだされ
少しばかり おどろいています

2010 心身ともにご自愛ください
たくさんの「始末書」たのしみにしております
Commented by enzian at 2010-01-03 10:49
聴さん

こんにちは。

>拙者は 「風向風力計」や「ピンホールカメラ」など
《道具系》の付録に そそられました

ぼくも道具系、好きでした。
ピンホールカメラなんて、
びっくり仰天しました。
いまでもその理屈はわかりません。^^;

>寺山では
芝居や歌 映画などのほうが 近距離にあります

多くの方がそうだと思います。
ぼくは特別に舞台芸術に弱いので、
本ばかり読むことになりますが。

今後ともよろしくお願いします。
Commented at 2010-01-07 14:19
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by enzian at 2010-01-10 11:24
鍵コメさん

了解です。

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