ハカイダー礼賛

オリンピック以来、相変わらずレスリングの浜口親子が引っ張りだこなようだ。他者にはつねに厳しくあろうと心がけているぼくではあるが、オヤジが娘のことを目を細めて話しているときなんか、実に微笑ましいと思ってしまう。ただ、世間の人たちはウルワシイ親子の愛に微笑むのだろうけど、ぼくの場合はちょっと事情が違っている。オヤジ、つまりアニマル浜口がかつて日本全国を敵に回すぐらいのものすごいヒール(プロレスの悪玉)だったことを思い出して、感涙にむせんでいるのだ(ちなみに、いつもアニマル浜口をやっつけていた善玉は、アントニオ猪木)。

小学生の頃、石ノ森章太郎のコミックをもとにした「キカイダー」という、なんとも安直な名前の人造人間ものの実写アニメ(?)があった。ジローという主人公がいて、そいつは確かギルとかいう極悪科学者に作られた(?)人造人間で、心に相当する部分には「不完全な良心回路」が埋められているということで、基本的には正義の味方なんだけど、ギルに特殊な笛を吹かれたりすると、不完全な良心回路がショートして、極悪人造人間になってしまうという、今思えば手の込んだストーリーになっていた。そういう手の込んだところがぼくの大のお気に入りだったのだけど、なんだかんだ言いつつ、うまくジローはギルの笛の魔の手をのがれて正義の味方になってしまって、いつも悪者をきれいに始末してしまうことに、ぼくは退屈感と違和感を感じはじめていた。しょせん「キカイダー」も、退屈な勧善懲悪もの。おばあちゃんの見ている「水戸黄門」レベルなのか。フッ。

ところが、ある日、「キカイダー」を見ていて、ぼくは全身が総毛立つような感動を覚えた。忘れもしない。ハカイダーという、これまた安直な名称の悪者が登場したときだ。また今週の悪者も、ジローにパンチ一発でのされちまうフヌケ野郎かと思って見ていたのだが、どうもこいつは悪者としては次元の違う強さらしい。それが証拠に、ハカイダーの登場場面には、なんと悪者にもかかわらず、ハカイダーの歌が流れるのだ。それがまたカッコイイ曲だった。今でも口ずさむことができるが、それはやめておこう。カッコよさは歌だけではない。見た目もまた卓越した、ほれぼれするフォルムだった。上下ピタッと決まった黒のつなぎで、特殊なピストルをフォルダに挿し込んでいる。おどろくべし、シュールなことに、頭はスケルトンで脳みそが見えているのだ。そしてカッコイイバイクに乗ってさっそうと現れ、去ってゆく。この大人のフェロモンをまとったハカイダーの圧倒的な存在感の前には、ギターを抱えたジローなんて、オコチャマに思えたものだ。

ハカイダーが登場して、ひょっとすると今日はキカイダーがやられるかもしれない、ついに、悪者の完全勝利という、オコチャマ向けアニメ史上、未だかつて見たことのない光景が繰り広げられるやもしれないと思ったとき、少年の心は天にも昇らんばかりに高揚した。小学校の授業などそっちのけでそのことばかり考えて、帰りは走って家まで帰ったのだった。――結局、期待は破れ、テレビっ子の少年はまた当たり前の日常を繰り返すことになった。でも、少年は思っていたのだ。いつもいつも正義が勝って、いつもいつも悪が負けるなんてこと、あるはずのないまやかしなのだ。それに、つねに純粋な正義などないし、つねに不純な悪もまたない。

by enzian | 2004-12-08 21:31 | ※テレビ・新聞より | Trackback | Comments(4)

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Commented by jumpin_upanddown at 2004-12-08 22:51
>他者にはつねに厳しくあろうと心がけているぼく
私もそうですが、自分には優しくありたいと思ってます。

純粋、不純、かっちり割り切れないから
人の心が動くのでしょうね。
Commented by enzian at 2004-12-09 22:50
他者に厳しく、自己には優しく。やっぱり、これでないといけないですよね。

最後の方、ちょっとおしつけがましい文章になっていますね。反省(ウソ)。
Commented by kei at 2004-12-16 03:23 x
同居人がオトナ買いし損ねて、徒に集まっていく
ビジダーとサイドカーのプチフィギア。
きっとヤツにとって、キカイダーの本質までは考えに及ばないばず。
単なる懐古主義により、当時キカイダーを見て感動を覚えた自分を
今更ながら〝ふぇ~~〟って感覚でいるのだと思います^^;
あたしはむしろ、ハカイダーの切なさに人間の根幹を見出して
しまったのでした。@当時(苦笑)
Commented by enzian at 2004-12-18 22:05
keiさん、コメントありがとうございます。それと、返信が遅くなってしまってすいません。完全に見落としていました。ぼくも、この記事を書いてから、ハカイダーにも割り切れないいろいろな(人間的な)部分があったことを思い出しました。

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