菅浦(6)

b0037269_21554828.jpg参道から外れ、舗装されていない道を歩く。やけにアゲハチョウが多いと思えば、山椒が生え、いたるところに夏ミカンがなっている。山椒や柑橘類などのクセの強い葉は、臭角を武器とする “モスラ” たちの餌になるのだ。そういえば、『続・釣れなくなくてもよかったのに日記』(以下、『日記』)で福島昌山人さんが菅浦の夏ミカンのことを書いていた。おじいさんが働く畑の仕切りには、由美かおるのホーロー看板が立っている。

細い路地裏に出ると、看板が掛かっている。「割烹佐吉」――諦めかけていたものがそこにあった。ひとに聞かれれば美しい湖水を見に来たと言うだろうが、心の片隅ではこの店を願っていた。『日記』に書かれた菅浦は、どこまで餌が落ちて行っても見え続けている透明な湖水のありかであり、釣り終わったあとの佐吉での暖かい会話のありかなのだ。それらを求めてぼくはここへ来た。

「佐吉」に入ってビールを飲んだ。師匠の近況を報告しておいた。
「佐吉」の若兄ィちゃんがモロコの南蛮漬けと、あめだきを出してくれた。
モロコはおいしいけれど、クセがないのである。川魚が好きなぼくにはたよりない気がする。そりゃ、一般受けはして、よく売れると思うけど、ぼくはハイジャコやボテのあの苦味がいいのである。
 ボテは食べられないというけど、ハラワタを出して、あめだきにするといい苦味があって本当においしいのです。
 ここの若兄ィちゃんとしゃべっていても、まったくすれていない。純朴な感じがする。
「来年来てください。嫁がくることになってます」
「そう、嫁さんが」
「ハイ」青年は嬉しそうな顔をした。
 なんだかぼくも嬉しくなってきた。(『日記』37-38頁)

佐吉で川魚をいただいた。山椒をきかせた鯉の味噌汁が美味しい。ご主人が出てこられて、「いかがですか?」と尋ねられた。「若兄ィちゃん」であった。穏やかな語り口の、人なつっこそうな方だった。今日ここまで来た理由や福島さんのことを話せばよいものを、二次元の文字世界での住人に三次元で出会ったとたん胸がいっぱいになって、「美味しいです」とだけしか答えられなくなった。しばらくして「嫁さん」も出てこられた。

菅浦ならと淡い期待を抱いたが、湖南と変わらず菅浦も外来魚にあふれ、菅浦港はルアーマンたちの釣り堀状態であった。ブラックバスやブルーギルに駆逐されて湖南ではすっかり姿を見なくなった在来のモロコやハイジャコ(オイカワ)はここでも少なくなっているのだろう。とはいえ、福島さんと、車で送ってくれたおっちゃんの言っていたことはウソではない気がした。

by enzian | 2010-07-18 22:11 | ※海を見に行く | Comments(0)

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