座りたくない老人の憂鬱

ドアが開き、初老の男性が乗り込んでくる。座席には目もくれず、ドア際で窓の外を見ている。女性が立ち上がり、老人の肩を叩く。老人は一瞬困惑した表情を浮かべるが、好意に甘えて、席につく。次の駅で老人は降りる。――電車で座りたくない老人は一体どうしたらいいのかと考えるときがある。体を鍛えるためでも、人の情けにすがりたくないからでも、理由は何でもいい。ともかく立ったままでいたい。そのような場合、それなりの年齢に達した人は、電車のなかでどのように振舞えばよいのだろうか?

まず、優先席付近は避けなければならない。危険すぎる。下手に目でも合ったら最後、すかさず席を譲られてしまう。そこはそういう場所なのだ。しかも譲った人は思っているかもしれない。「ちっ、譲らないと、こっちが悪人になってしまうだろうが!」。普通席の近くはどうだろうか。ここでも席を譲られてしまう可能性は高い。譲った人はこう思うかもしれない。「座りたかったら優先席へ行けよな!」。連結器付近へ逃げ込もうとするのも得策ではない。連結器の手前には恐怖の優先席ゾーンが待ち構えているからだ。残るは、ドア際でひたすら窓の外を見るしか手がないが、これも絶対とは言えない。冒頭のような親切な人がいないとも限らないだ。しかもその場合、強力な親切心があだになって、むげに断ることはできない。

そこにさえいれば安心な空間は電車にはない。だとすれば、あとは自分の体に工夫をこらすしかない。乗り込んだとたんに倒れこむか。これなら座席には座らなくていいが、担架に載せられる恐れがある。ヘッドフォンステレオを大音量で聞きながらビートのリズムに乗って乗り込む。座らなくていいが、白い目で見られ続けること必至。「私を老人扱いしないでくださいシール」を見えやすいところに貼る。ちょっと恥ずかしいが、これしかないのかもしれない。気丈な老人にとっては、“やさしさ” (おせっかい?)に満ちた電車の中は不自由きわまりない世界なのかもしれない。

by enzian | 2004-12-15 20:56 | ※通勤途中 | Trackback | Comments(5)

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Commented by jumpin_upanddown at 2004-12-16 10:53
>ヘッドフォンステレオを大音量で聞きながらビートのリズムに乗って乗り込む
将来はコレで行こうかと思います。
それはともかく
席を譲るのも譲られるのも自意識が変に反応して落ち着かないもんですね。
Commented by enzian at 2004-12-16 23:43
>席を譲るのも譲られるのも自意識が変に反応して落ち着かないもんですね。
本当にそう思います。
ピンピンした老人が安心して立っていられるように、
「老人専用車両」を作ってもらいましょうか。

Commented by jumpin_upanddown at 2004-12-17 12:52
65歳以上限定オールスタンディングですね。
Commented by coeurdefleur at 2006-02-12 12:47
人情が薄くなったと言われていますが、
なかなかどうして捨てたもんじゃないね日本(笑)
ただ、日本人はそういったことがヘタな気がします。
気軽にさり気なく言う「どうぞ」
当たり前だろでもなく、かといって過剰に恐縮するのでない
「ありがとう」
そして
「いいえ。立っていたいのです。ありがとう」
これに気分を損ねない許容量。
本当は人それぞれを弁えていれば「ああそうなのか」ですんでしまうことなんですよね。
お互い妙に力が入るから受けるのも断るのも気を遣うんだ。

しかし、…倒れこみやビートに乗って…(笑)
顔に書いていらっしゃればよいのでは?^^
Commented by enzian at 2006-02-12 17:55
柊さん

>人情が薄くなったと言われていますが、
なかなかどうして捨てたもんじゃないね日本(笑)

捨てたもんじゃないと思います。
やさしくしたい、という気持ちはたくさんあるのだと思います。

>ただ、日本人はそういったことがヘタな気がします。
気軽にさり気なく言う「どうぞ」
当たり前だろでもなく、かといって過剰に恐縮するのでない
「ありがとう」
そして
「いいえ。立っていたいのです。ありがとう」
これに気分を損ねない許容量。
本当は人それぞれを弁えていれば「ああそうなのか」ですんでしまうことなんですよね。
お互い妙に力が入るから受けるのも断るのも気を遣うんだ。

ええ、まったくその通りですね。
「どうぞ」「ありがとう」「いいえ」これらを気軽に言えるようにしたいですね。

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