ぬるぬる准教授

とある授業に行くと、毎週毎週、どうしようもなくマイクがぬるぬるだったことがあった。辟易するのだが、たくさんの聴講者を前に「ぬるぬるなので、授業をはじめることができません」と泣き言を言うこともできず、下手をするとつるりとすべりそうになるマイクをもちながら授業をはじめると、いつしかぬるぬるのことも忘れてしまうのであった。

その日もぬるぬるだった。マイクをもった手でノートをめくると油が染みついた。「前の授業の担当者はどこまで脂性(あぶらしょう)なひとなのか」などと言いたかったが、脂性に罪はないのだ。しかもそんなことを言えば、たちまちその教員の名前は調べられ、「ぬるぬる准教授」とか言われかねない。ぼくとて、授業評価アンケートの「プライバシーに配慮している」項目の点数を下げられてもかなわんので、そんなことは言えぬ。進退きわまったぼくは、おもむろに学生たちに背を向け、チョークの粉をそっとマイクに振りかけた――。

by enzian | 2010-12-23 23:11 | ※キャンパスで | Comments(0)

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