ホームポジション

近所の通りにいったい何件の店があるのか、いまだにわからない。夜とおったときには開いていなかった店が昼間だと看板を出しているし、昼間は気づかなかったうなぎの寝床のような飲み屋が夜になると開いていて、こんなところ誰も来ないだろ、と侮ってちらりと覗いたら、ぐでっとしたおっさんたちが飲んでいる。のんべえたちには、いかに目立たない路地裏であろうと、居所を見つけるセンサーが備わっているのだろう。そんな飲み屋から出てきたおっさんがひとり、前を歩いている。右に左に大きく振れながら歩いていくので、これは千鳥足のイデア(そのものずばり)だなと思ったら、おかしくてしかたなかった。

あんまり大きく振れるものだから、車にでもひかれたら困るかな、手を貸した方がいいのかな、とちょっと心配しながら追尾していたのだが、どうもその必要はないらしい。大きく振れながら歩くおっさんの左右の振れ具合は一定していて、右に大きく振れたかと思うと、次はちょうど同じだけ左に振れていて、つねに “ホームポジション” に戻っている。おっさんはおっさんなりにすでに見事に一定の調和を保っているのだ。そしてそうやってちゃんと家にもたどり着くのだろう。そんなおっさんに、あぁそっちじゃないですよ、右には振れないようにしましょうね、とか、次の足はこっちに出して、そうしないと家に帰れないですよ‥‥なんてことを言い出したら、とたんにおっさんは歩けなくなってしまうだろう。

by enzian | 2011-05-19 21:26 | ※街を歩く | Comments(0)

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