いつも前から歩いてくるひと

ときどき向こうから歩いてくるひとがいる。誰だか知らない。脇目もふらず、まっすぐ前を向いてどうどうと、ゆったりと歩いている。こちらに興味を示す様子はない。決まって手ぶらだが、ときどき小さなウェストポーチらしきものをつけていることもある。毛むくじゃら系だが、それなりに荒っぽくまとまっている。背丈は大きくない。彼に最初出会ったのは、ぼくが19歳のときで、大学の構内でのことだった。ぼくは一目でその顔を覚えた。なるほど大学とはこのような人間が闊歩するところなのだ、と思った。あのときから彼の風貌はまったく変わらないままで、ときどき忘れかけたころに前から歩いてくる。いつも前から歩いてきてすれ違うばかりで、後ろから来て抜かれたことは一度もない。

by enzian | 2011-10-07 22:47 | ※キャンパスで | Comments(0)

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