『夕凪の街 桜の国』(こうの史代)

b0037269_20213858.jpgこうの史代『夕凪の街 桜の国』を読む。原爆が人々にどのような影響を与えるかを描いたコミックとして、長く残るすぐれた作品であると感じた。

構成は「夕凪の街」と「桜の国」(一)(二)から成る。「夕凪の街」は原爆投下10年後、「桜の国」はさらに後の設定となっており、この時期設定が『夕凪の街 桜の国』を特徴づけている。『はだしのゲン』が、原爆投下直後の状況、原爆が瞬間的・短期的にどのような影響を人々に与えるかに目を配った作品であったとすれば、本書は、原爆が長期的に、いかに生き残った人の心(いや、「魂」と言った方がよいかもしれない)と体を徐々に蝕んでゆくかを描き出そうとした作品なのだ。

原爆投下直後の目を背けたくなるような描写はほとんどなく、むしろ、こうの史代の描く町並みや人々は、どこまでも柔らかく、やさしい。だが、それがそのままこの書の印象となることを読者は望めない。やさしく柔らかなものが長い年月のなかで一枚一枚薄皮を剥ぎ取られるように消耗し、やがて消え去ってゆくさまを読者は目の当たりにしなければならない。そして、そのような経過が今も進行しつつあることを知らねばならない。

by enzian | 2005-08-15 20:32 | ※好きな絵本(コミック) | Trackback | Comments(19)

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Commented at 2005-08-15 22:42
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by enzian at 2005-08-15 23:19
鍵コメさま

>受身でしかありえない一般の人間の哀しみや哀れさ

そういう共通点があるのでしょうね。

『風が吹くとき』と『夕凪の街 桜の国』の内容の違いについては、
ぜひ、読み比べてください。

>これって、ちょっと日本語が変

そうかなぁ゛(`ヘ´#)
「近づきやすい雰囲気を醸し出す」では、書きすぎでしょう?
(ママー、コワイ鬼がぼくをいじめるのです(T_T)
Commented by enzian at 2005-08-15 23:33
鍵コメさま

やっぱりおかしいと思って、文章かえたのだ~
あたふた (((^^;)(;^^) ))あたふた (ゴマカスナ!)
Commented by バッカス at 2005-08-16 17:31 x
enzianさんは、心と言ってその後魂と言い換えた。
心と魂。
どこが違うか教えてください。
Commented by enzian at 2005-08-16 18:44
バッカスさん

よく気づいてくださいました。
そこは、ぼくが今回の記事で、ヤバヤバだなぁと思いつつ、
エイッと書いたところです(^^;

「魂」ということで、
個体の命を保つために必要な、根本的な心の働きのことを言っています。
心の枝葉末節の部分でなくて、そういう枝葉末節を支配して、
一人の人間が生き続けることができるように配慮しているような心の部分のことです。
古代ギリシャの時代から、こういう生命原理は「魂」
(プシュケー、後にラテン語でアニマ)
と呼ばれていました。その意味でぼくは「魂」を使っています。
Commented by harry_hk at 2005-08-16 20:44
どこまでもやさしく、どこまでもやわらかく。
どこまでも恐ろしく、どこまでも醜く。
どこまでも強く、どこまでも弱く。
どこまでも青い空と、どこまでも続く憎しみ。

そんな感想です。
Commented by enzian at 2005-08-16 21:52
ハリーさん

読まれましたか。ぼくは他の方が記事にしておられたので知りました。
そういう対比対照が、この物語を印象強いものにしているみたいですね。
まちがいなくそうだと思います。
Commented by バッカス at 2005-08-17 05:34 x
心を海にたとえるなら、
気分は表層の波で魂が深層の底流ぐらいの解釈でよいのでしょうか?

表層に波を起こす程度の衝撃ならそれもすぐに忘れられてしまう。
でも深層に与えられた影響が表層に現れてくるのは忘れた頃で、
そしてそうした影響の方が直後の衝撃よりもはるかに深刻なのかもしれませんね。
Commented by enzian at 2005-08-17 09:46
バッカスさん

>心を海にたとえるなら、
気分は表層の波で魂が深層の底流ぐらいの解釈でよいのでしょうか?

はい。そういう感じでお願いします(^^;
Commented by yachiem at 2005-08-18 00:54
一度、読んでみたいと思います。
Commented by enzian at 2005-08-18 08:19
yachiemさん、ぜひ、読んでみてください!
Commented by mu.saihou at 2005-08-19 22:54
阪急梅田の百貨店が立て替えてますね
部分部分で残すらしいですが
もったいないな~
Commented by enzian at 2005-08-19 23:51
mu.saihouさん

そっそれは、禅問答ですか!?
意味がわからないのですが。。。
Commented by gauche3 at 2005-08-20 10:53
enzianさんの記事読んで、先日買って、家族で読みました。
何とも言えない読後感ですね・・・
あとからじわじわ来るような。
とても良かったです。
Commented by enzian at 2005-08-20 13:24
猿夫さん

>何とも言えない読後感ですね・・・
あとからじわじわ来るような。

そうですね。
読めば、なにかを考えざるをえないと思います。

>enzianさんの記事読んで、先日買って、家族で読みました。

それはよかったです。
お子さんもなにかを考えたことでしょう。

ぼくは小学校の頃に『はだしのゲン』を読んだのですが、
その頃にこの本があればもっとよかった、と思いました。
人はとかく原爆の一瞬間の破壊力を強調しますが、
原爆の威力が一瞬間だけのものではないことを
早くから知ることができただろうからです。
Commented at 2005-08-22 13:51
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by enzian at 2005-08-22 22:17
鍵コメさま

そちらで説明します。
Commented by 006 at 2005-09-24 11:57 x
読みました。

こうの史代って人はおちゃめですね^^
表面がおちゃめってところがミソでしょ、enzianさん。
感想考えます。
Commented by enzian at 2005-09-24 18:13
006さん

>こうの史代って人はおちゃめですね^^

おちゃめです。

>表面がおちゃめってところがミソでしょ、enzianさん。
感想考えます。

そうでごわす。
表面的にはおちゃめなんですが、
かなり深いのです。
表面的なおちゃめさが衝撃を強めます。
ぼくみたい?(ウソです、許してください!)

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