私設応援

雑誌『AERA』のコラム「今という時間(とき)」に掲載されたエッセイです。二世、三世ってどの世界でも多いですね。親のやっていることを自分もやろうとする──親不孝でへそ曲がりな私には、できないことなのです。

「芸能人や政治家の子どもはいいですね。簡単に有名になれるのですから」。テレビ番組に影響されたのか、義憤にかられたように学生が話しかけてくる。「どうだろう、彼らにもそれなりの苦労はあると思うけど‥‥」

一応、物わかりのよい答えを返してはみたものの、本当のことを言えば、自分にとっても親の七光り芸能人だとか、二世政治家だとかは、昔からこころよく聞ける言葉ではなかった。芸能や政治的手腕が遺伝するなど、ありえないことだと思っていた。ごく平凡な両親の子どもだったから、嫉妬心が影響したのかもしれない。

しかしいつからか、そういった人たちにさほど違和感を感じなくなり、ときには声援を送れるまでになっていた。何がきっかけだったのだろうか。才能も遺伝すると考えを改めたからではない。遺伝しないと頑なに信じ続けているから、いつしか違和感も薄れていったのである。

社会的な成功を確約する親譲りの才能。何とも便利ではあるが、そのようなものはない。だからこそ、特別に由緒正しくもない私や君が有名になるかもしれないし、世襲制度に含まれる矛盾も明らかになるのだろう。件(くだん)の芸能人や政治家に声援を送ることは、同じく便利な才能をもたない自分自身を応援することにもなる──。

ぼんやりとそのようなことを考えながら、大した自信もないまま、学生には伝えられないでいた。

by enzian | 2004-10-24 09:45 | ※どこぞに載せたもの | Trackback | Comments(0)

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