言葉のキレに酔う

「‥‥というようなつもりは微塵もありません」という言葉に力が漲(みなぎ)っていた。そのとき、その人は、曖昧さをまったく残さない自分の言葉のキレに酔っていた。よく切れる包丁でトマトをすっぱり切ることが快感であるように、一定の言葉の――こう言ってよければ、身体的な――アクションに酔ってしまうことがあるのかもしれない。

身に覚えがある。履修者が500人近い授業をしていたことがある。ざわついていた数百人が、こちらがしゃべりはじめるやいなや水を打ったように静まり返り、一点に集中する。大勢の聴衆を前にして調子に乗った三文役者(後に、そう学生に評された)は、愚かにも、意図的にキレのある言葉を繰り返し、授業の学問的厳密さなどそっちのけでひとり盛り上がっていた。ミュージシャンがコンサートで感じる高揚感とはこのようなものなのだろうか、とも思った。

話者だけでなく、それを聞いている者までも知らず知らずのうちに酔わせてしまう陶酔。事は、自分が “乗らない” だけでは済まされない問題なのだ。幸いなことに、それ以来、千鳥足三文役者の授業の履修者数は、下降の一途をたどっている。

by enzian | 2007-05-19 13:21 | ※キャンパスで | Trackback | Comments(10)

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Commented by 毒きのこ at 2007-05-20 10:37 x
どーせ聴くなら酔わせてほしい♪

・・・なんて日々思います
たとえそれが愚痴でも
くだらない話でも
山あり谷ありの身の上話でも

会話にまつわる空気感を
”酔い”になぞらえるって、面白いですね^^
その時
聴衆・オーディエンス・相方は
お酌をこまめにしたり
酔いつぶれる話者を放っておいたり
いろいろかもしれませんね

呑んで酔ってみて
また一緒に呑みたいとか
もうアイツと呑むのは御免だとか
いろいろわかるのかもしれませんね
Commented by enzian at 2007-05-20 16:07
毒きのこさん

>どーせ聴くなら酔わせてほしい♪

そうできればいいのですけどね。
授業では根拠のないことは言えませんから、
どっちかというと堅苦しい感じになってしまうのです。

中高生相手のミニ講義ぐらいなら、
大丈夫かもしれないけどね(いや、いかん、いかん)。(^^ヾ
Commented by rakubin at 2007-05-26 12:36
であるからしてぇ~かように思う次第でありますがぁ~

いったいぜんたい何が言いたいのか分からない人より1000倍も良いですね。裏づけを持った上で断定した物言いができる人、ステキだと思いますよ。自分が酔わずして人を酔わせられるかって思うんですが。それは文学で言えば純文学みたいなもので、人を集めるにはエンタテイメントの要素を盛り込んだ商業的文学でなくちゃならないのでしょうか・・・(笑)
Commented by enzian at 2007-05-27 08:21
rakubinさん

>であるからしてぇ~かように思う次第でありますがぁ~

さすがに、そんな歳でもないって。^^

>いったいぜんたい何が言いたいのか分からない人より1000倍も良いですね。裏づけを持った上で断定した物言いができる人、ステキだと思いますよ。

両方をかねそなえているのが理想ですね。
精進しますです、はい。(^^ヾ
Commented by aroomwithaview at 2007-05-27 11:21
講義にしてもコンサートにしても、ゾクゾクしたぶん脳裏に鮮明に残っています。
まずは、先生が酔っていないことには始まりませんものね。
両者が同じ酔い加減になるのがいちばんですけど。

こちらの大学生って受動的な生徒が少なく、発言する人の多いこと。(先生が止めなくてはいけないこともしばしば)なので、この記事のような状況ってあまり記憶にないです。コンサートなどでも、客席から興奮のあまり声があがり、それにこたえるミュージシャンのアドリブの相乗効果で、両者が盛り上がるっていうのは最高ですね。

とっても人気のあった先生は、かなり酔うタイプでしたよ。
口の両端に唾をためて夢中になって熱く語る先生でした。今では、偉いポジションを与えられたとかで大学にはいないようです。
Commented by enzian at 2007-05-27 15:03
aroomwithaviewさん

なるほどねぇ。
上のrakubinさんのコメントと、このaroomwithaviewさんのコメントで、
自分が酔うのも大切なんだなぁと、考えを改めはじめました。
ある種の酔いがなければならないのでしょうね。
これで、履修者が増えるかしらん。^^

>こちらの大学生って受動的な生徒が少なく、発言する人の多いこと。(先生が止めなくてはいけないこともしばしば)なので、この記事のような状況ってあまり記憶にないです。

それはそれで大変なこともあるのでしょうけど、
うらやましいなぁと思います。
ぼくの場合、ゼミなどの授業運営でいちばん苦労するのは、
いかに活発なディスカッションを引き出すか、です。

>コンサートなどでも、客席から興奮のあまり声があがり、それにこたえるミュージシャンのアドリブの相乗効果で、両者が盛り上がるっていうのは最高ですね。

そうですね。
Commented by manic-depression at 2007-05-28 14:31
(manchesterです。エキサイト登録にあたり、名前を変えざるをえなくなりました。enzianさんみたく素敵な名前が思いつかず、どぎつい名前になってしまいました・・・。)

授業の内容が確かなものであれば、酔っていてもいいのではないですか?(^^)
私は、哲学史の授業で「この領域に入っちゃったら哲学者としては駄目だね」とかいうコメントを挟まれるのが好きで、心の中でクスッと笑っていました。
Commented by enzian at 2007-05-29 23:23
manic-depressionさん

>どぎつい名前になってしまいました・・・。

長い名前になったね。

>授業の内容が確かなものであれば、酔っていてもいいのではないですか?(^^)

うん。そうですね。両立を目指すことにします。^^

>私は、哲学史の授業で「この領域に入っちゃったら哲学者としては駄目だね」とかいうコメントを挟まれるのが好きで、心の中でクスッと笑っていました。

そんなシニカルなことを言うからいけないんだよね。(^^ヾ
Commented at 2007-06-23 15:33 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by enzian at 2007-06-24 09:08
鍵コメさま

最初の2行で、すっかり笑ってしまいました。^^

>ストレス解消

ブログってありがたいと思います。
ストレスってどこにでも転がっていますから。
誰でしょう、こんないいもの考えてくれたのは。^^
素性の割れているぼくの場合は
ストレス解消はむずかしいですけどね。(^^ヾ

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