『すてきな三にんぐみ』(トミー・アンゲラー)

b0037269_12211879.jpgトミー・アンゲラーの『すてきな三にんぐみ』です(原題は、The Three Robbers)。以前の記事(気になる本があったら、教えてください)で、あるブロガーさんに教えてもらって読んで以来の好きな絵本です。

絵は、もう表紙を見ただけでもその幾ばくかは伝わるかと思いますが、不思議な絵です。漆黒の闇に暗躍する盗賊たちの話で、黒と暗い青が基調になった絵なのですが、少しも暗さを感じさせません。むしろ、どこか、おちゃめな感じさえする絵柄なのです。

三人の盗賊の持ち物もおかしい。吹けばぷーぷー音が出そうなラッパ銃と、くしゃみが止まらなくなりそうな胡椒吹きつけ器、凶器と言うよりは夜に羽ばたく派手な鳥といったオレンジ色の大まさかり。三人は通りがかりの馬車を襲って金品を強奪して生計を立てているようですが、これらの持ち物で人間自身を傷つけたりしたことは、きっと一度もないのでしょう。

ある日、いつものように通りがかりの馬車を狙った三人でしたが、その日の馬車には、いじわるなおばさんのところへ送られる途中だった、みなし子のティファニーちゃんただひとり。おばさんのところよりもおもしろそう、とついてきたティファニーちゃんを大切に大切に抱きかかえ、隠れ処に連れて行ったときから、三人の新しい生活がはじまったのでした。



物語からぼくが読み取った楽しさは、二つのことです。

一つは、恐ろしいはずの盗賊が少しも恐ろしくないものとして描かれていることです。この物語では、ティファニーちゃんにめろめろになった盗賊たちが、結果として人々の安寧・福祉に役立つことになる顛末が語られています。人々に忌み嫌われる存在のうちにある、人知れぬ人間らしさ、信頼すべきやさしさ、不器用とも言える一途さといった意外性が、コミカルに描き出されています。(おそらく、このような見方の裏には、ほんらい、人々の安寧や福祉にかかわる、尊敬されてしかるべきはずの人々への、アンゲラーのシニカルな見方があるのでしょう。)

もう一つは、ティファニーちゃんがティファニーちゃんであることの価値が描かれていることです。この物語でティファニーちゃんが起こしたアクションはたったひとつ、盗賊たちが集めていた宝の山に「これ、どうするの?」と聞いたことだけ。まぁこれは金目のものを集めること自体が目的で、目的と手段が入れ替わっていた盗賊たちの急所を突く問いであったわけですが、ティファニーちゃんはそのほか別段なにをしたわけでもない。ティファニーちゃんはティファニーちゃんとして盗賊たちといっしょに暮らしていただけで、ティファニーちゃんが美しい○○を着ているからとか、ティファニーちゃんが上手に○○をしたから、とかそういうことはまったくない(「ティファニー」という名前は、あのTiffanyへの皮肉なのかな)。ティファニーちゃんは、どうしてくれとも言っていないのに、なんのデコレーションもなくただ彼女が “いる” ということだけで、盗賊たちに孤児救済という生きる意味が生じ、その結果、人々が幸せになってゆく。少女が少女そのままであることの愛らしさ(容貌のことを言っているのではない)が周囲の意識を揺り動かし、よい意味で変えてゆく、というのであれば、こんなけっこうなことはないでしょう。アンゲラーはこの書を娘さんに捧げていますが、アンゲラーにはティファニーちゃんと娘が重なって見えていたのでしょうし、そうであるなら、意外にも世の中の役に立てるかもしれない盗賊とは、貧困と病弱のうちに這々の体(ほうほうのてい)でフランスから脱出し、アメリカでとある出版社に拾われ、幸せな家庭をもつことができたアンゲラー自身でもあったのでしょう。

ぼく自身は、折に触れて学生の話を聞いたり、ブロガーさんたちの記事を読みながら、親にとっての娘というのはいったいどれほど愛らしい(あるいは、愛らしいはずである)ものなのだろうか、それはぼくの想像を絶するものではないだろうか‥‥などと思ったりすることがあります。あるとき、ぼくの母はぽつりと言ったものです。「ほんまはな、おかあちゃん、女の子が欲しかってん」。なんだか解せんところもないではないが、一コマ分の授業の目星はついた。

by enzian | 2007-08-16 19:49 | ※好きな絵本(コミック) | Trackback | Comments(29)

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Commented by bucmacoto at 2007-08-17 00:44
男の子は おもしろい♪
女の子は 守ってあげたい

そういう気が生まれる生き物なのです。 たぶん
Commented by chinchudo at 2007-08-17 12:19
「どろぼう」が主人公の小説は、「ホッツエンプロッツ」とか
「ルパン」とか、子どもの頃にmouretsuに心ひかれました。
どろぼう=悪 のはずなのに、善=親切だったり正義漢(?)
だったりするキャラクターに、「悪」ってなんなのだろうと、
とめどなく考え続けたことを思い出します。
Commented at 2007-08-17 23:46
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by aroomwithaview at 2007-08-18 06:47
どろぼうが主人公の絵本で思い出すのは、かこさとし著の“どろぼうがっこう”です。
この中では、どろぼうはそのまま・・・どろぼう。善人ではないのです。
でも、この絵本は娘達が好きです。(子供達にも人気らしいです)
大人に好まれるかどうかは?なのですが。
そして、どうして子供はこんな絵本が好きなのだろう?
と思うことがしばしばあります。
大人の複雑な考えで理解すると見えてこないものがあるのでは?
とも思います。
ティファニーちゃんがティファニーちゃんであるだけで周りを変えていく
というのは、娘達がこんな絵本を楽しんでいる姿に重なったりします。

>人々の安寧や福祉にかかわる、尊敬されてしかるべきはずの人々への、アンゲラーのシニカルな見方があるのでしょう

確かに。大人になることは、頭でっかちで心が萎むことではないはずなのに・・・と
娘達の生活から&振り返ったりしながら反省する日々です。

>それはぼくの想像を絶するものではないだろうか

食べちゃいたいくらい。ですよ。(笑)
目の中に入れても痛くないっていうのは、ちょっと・・
わたし、男の子が欲しかったんですよね・・(ぽつり)
Commented by enzian at 2007-08-18 16:47
bucmacotoさん

>男の子は おもしろい♪
女の子は 守ってあげたい

そういう気が生まれる生き物なのです。 たぶん

コソコソ|_-))))
そういう言葉に乗ってしまうと、
不幸が襲いかかってくるような気がしますので、
ノーコメントを貫かせていただきます。汗
Commented by enzian at 2007-08-18 16:52
chinchudoさん

>「どろぼう」が主人公の小説は、「ホッツエンプロッツ」とか
「ルパン」とか、子どもの頃にmouretsuに心ひかれました。
どろぼう=悪 のはずなのに、善=親切だったり正義漢(?)
だったりするキャラクターに、「悪」ってなんなのだろうと、
とめどなく考え続けたことを思い出します。

なるほど、下でaroomwithaviewさんも言っておられますが、
どろぼうが主人公のものは多いですね。
ぼくはこれを書いていたときには、
ふだんなら嫌われる鬼が主人公になった物語のこととかを考えていました。

chinchudoさんはしないかもしれないけど、
ロールプレイングゲームとかには
盗賊といった職業があって、主人公が盗賊になったりすることができます。
そういうことからもわかるのですが、
ぼくらはどろぼうを凶悪犯とは考えない傾向があるようですね。
京都には、「おどろさん」という言葉さえあったように思います。
Commented by enzian at 2007-08-18 17:01
chinchudoさん、続き。

で、なにが言えるかというと、
あることを絶対的な悪とは考えない傾向は、
盗むという行為の場合、
他のいわゆる悪事と言われるものに比較して強い、
ということです。

私腹を肥やしているような人物のものを盗んだような泥棒が
悪人ではなくて「義賊」となるのは、そういう事情で、
善悪の基準は盗む、盗まない以外の場所にある場合もあるのでしょう。

chinchudoさんに指摘されてそんなことを考えましたが、
だとしたらなにが悪なのか?と聞かれても、
答えることはできなかったりする。(^^ヾ
Commented by enzian at 2007-08-18 17:06
鍵コメさん

そういうものが人間の根本にあると思える、
というのはとても素敵だと思います。
ちなみに、ぼくもそう思いますから、
ぼくも素敵な人です、きっぱり。
(要はそれが言いたいらしい。^^)

世のかなにティファニーちゃんは必要ですね。^^

>下から5行目。

そういうツッコミをされると思ってましたよ。(^^ヾ

>下から4行目。

わかりやすいんだいっ! \(-_- ビシッ(いちおう、ツッコミを入れておきます。)

>下から3行分。

φ(._.)メモメモ
Commented by enzian at 2007-08-18 17:13
aroomwithaviewさん

>どろぼうがっこう

その本は知りませんでした。
とても興味深いです。
大人がどこまで分析できるのか、
ぜひ読んでみたいと思います。

>確かに。大人になることは、頭でっかちで心が萎むことではないはずなのに・・・と
娘達の生活から&振り返ったりしながら反省する日々です。

aroomwithaviewさんには頭でっかちな感じは
みじんもありませんよ。
aroomwithaviewさんでもダメなら、
大人はみんな全滅ですよぅ。

>食べちゃいたいくらい。ですよ。(笑)
目の中に入れても痛くないっていうのは、ちょっと・・
わたし、男の子が欲しかったんですよね・・(ぽつり)

^^
Commented by yuta at 2007-08-19 23:44 x
enzianさん,こんばんわ。ティファニーちゃんは確か,いじわるなおばさんだかおばあさんのうちに行くよりも,面白そうだと盗賊と一緒に行くことを選んだのでしたよね。
『面白そうだ!』から,人々が増え,町ができ,盗賊の宝物に意味が与えられる。いつもいつも目的があるところに結果があるわけではなく,偶然のような必然の関係性の中に生きる意味がつむぎだされてきてみたり・・・。うまくいくも人生,こけるも人生,できれば,主観的にうまくいくほうがいいな,とはおもいますけれど,切に。
Commented by enzian at 2007-08-20 00:32
yutaさん

こんばんは。

>ティファニーちゃんは確か,いじわるなおばさんだかおばあさんのうちに行くよりも,
面白そうだと盗賊と一緒に行くことを選んだのでしたよね。

ぎゃー、おばあさんとちがって、おばさんでしたね。いま、訂正しました。汗
いじわる=おばあさん という物語図式が成り立っているんかもしれん。汗

>いつもいつも目的があるところに結果があるわけではなく,
偶然のような必然の関係性の中に生きる意味がつむぎだされてきてみたり・・・

そうですね。
長く生きてくればくるほど、
多くの人を見れば見るほど、そういう風に考える自分がいます。
Commented by enzian at 2007-08-20 00:34
yutaさん、続き

そういうわけで、
「そうすることがなんの意味があるのですか?」
「それはどういう目的に対する手段なのですか?」
を繰り返す方々にはあぁと思いますけど、まぁ仕方ないですね。
他人に、偶然のような必然の関係性に身を任せる
ように諭すわけにはいきませんしね。

盗賊たちはその後せっせと頑張ったようですが、
ティファニーちゃん自身はその後、幸せになれたのでしょうか。^^
Commented by kaori_yoshihara at 2007-08-20 18:39
この絵本読んでみたいでーす^^
シーンとした青の中にピリッと効いたオレンジ色、
青と黒だけだったら「がらがらどん」みたいな色使いですけれど、
オレンジが入ることでお茶目さがかもし出されているような、いないような。

絵本を読まないと記事の続きが読めませぬ。はぅ(*ノω\*)(←目隠し)
Commented by enzian at 2007-08-20 22:43
かおりさん

読んでみてください。
色づかいが独特でいいなぁと思います。
絵もね、ティファニーちゃんなんかぜんぜん美人じゃないのに、
なにか愛くるしいのです。

それと。
かおりさんの絵本の続きも書いてみてください。
先を読む気さえ起きない絵本がたくさん売られていますが、
あの二つは先を読みたい!という気にさせるものだと思います。
もちろん、そういう思いを持たせるものだけに、
続きが書きにくい、というのもあるのだろうけど。
もう少しだけ書けば、終わりがなくても、
読む者に考えさせる哲学的な絵本として作品になると思います。

かおりさん、絵本を書く才能があるかもしれないよ。
他にも時間を見つけて書いてみてください。
これはぼくのささやかな希望。
Commented at 2007-08-21 12:49
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by enzian at 2007-08-21 20:32
鍵コメ2さん

ちょっと困らせてしまいましたか?(^u^)フフフ
Commented by yuta at 2007-08-21 23:35 x
>ティファニーちゃん自身はその後、幸せになれたのでしょうか。
enzianさん,びみょ~う。
おばさん”ち”と比べたら,物理的に幸せかも,でもティファニーちゃんが幸せでいられるのかどうか?すんなりうん,そう!とは言えない感じ・・・。なぜでしょうか?アンゲラーのような子煩悩な聡明な父がいたらその娘は幸せか?・・・んー?です。きっと自分の思いがそこには重なるからからなんでしょう(笑)。
Commented by enzian at 2007-08-22 21:26
yutaさん

びみょ~う、ですよね。^^
子煩悩で聡明な父がいたところでその子が幸せかどうかはわからないですしね。
あらゆる条件が揃っていても、自分が幸せだと思えないと幸せじゃないわけ
ですけど、幸せってむずかしい。(^^ヾ
Commented at 2007-08-23 11:56
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by chinchudo at 2007-08-23 19:40

>ぼくはこれを書いていたときには、
>ふだんなら嫌われる鬼が主人公になった物語のこととかを考えていました。

ああ なるほど、と納得しました。 私は「どろぼう」を人間の職業(というか
社会での役割)と考えていたのですが、『すてきな三にんぐみ』については、
それだと腑に落ちない感じがモヤモヤとありました。

奪ってきてため込んでいる、というイメージは、たとえば鬼ヶ島の鬼のように
人間でないきらわれものを考えたほうが当てはまる気がしますね。

日本語訳しか読んでいない上に、この話の時代設定もよく知らずに書くのですが、
「馬車」というのは、庶民の乗り物ではなく、やはりお金持ちのものだろうと思うのです。
すると、「三にんぐみ」は、お金持ちをねらって追いはぎをしていたことになります。
そして、お金持ちの世界に属する予定だった(屬していた)「ティファニーちゃん」を
連れてきて、身内に取り込んだ。そこから展開が変わるのは、おもしろいと思います。

話の後半で興味があるのは、新しくできた町と外の世界の関係なのですが、
なんとなく霧につつまれた感じなので、今日はこのへんにします。

Commented by enzian at 2007-08-23 23:30
鍵コメ3さん

そちらに書きますね。^^
Commented by enzian at 2007-08-23 23:56
chinchudoさん

>「馬車」というのは、庶民の乗り物ではなく、やはりお金持ちのものだろうと思うのです。
すると、「三にんぐみ」は、お金持ちをねらって追いはぎをしていたことになります。
そして、お金持ちの世界に属する予定だった(屬していた)「ティファニーちゃん」を
連れてきて、身内に取り込んだ。そこから展開が変わるのは、おもしろいと思います。

なるほど。
これはちょっとおもしろい解釈ができそうですね。
う~ん、なんと言ったいいのかわからないのですが。

>話の後半で興味があるのは、新しくできた町と外の世界の関係なのですが、
なんとなく霧につつまれた感じなので、今日はこのへんにします。

さすがchinchudoさんですね。
河合さんなら、どう解釈なさるでしょうか

それもおもしろいと思います。
ぼくはその部分が気になりつつもうまく解釈できなかったので、
放ったらかしにしてあります。
深いですね。
Commented at 2007-08-27 15:53 x
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Commented by kaori_yoshihara at 2007-10-12 19:51
はぁ~、やっと読みました。
そして、記事を書きました。
(9月に下書き保存していたのを、加筆訂正したのです)
enzianさんにとってはもう過去の記事ですねぇ。たぶん。

私の母は、
「私は女の子がほしかったのよ。」(兄が2人います)
「お父さんはもう子どもはいらないって言ってね~」(貧しかったので。たぶん)
「だまくらかしてつくったのよ、8年かかったわ。」(2番目の兄とは8才離れています)
と言います。なんだか自慢げな様子で。
意志の力ですね・・・・・・何かの呪いではないかと思います、あはは~(゜∀゜)
そんな風にして、私は今ここにいます^^

トラックバックさせていただきました。
何か支障がありましたらおっしゃってくださいませ^^
Commented at 2007-10-14 19:13
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by enzian at 2007-10-14 20:00
↑鍵コメさん

そちらに書きます。
Commented at 2007-10-14 22:47
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2007-10-14 22:48
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by enzian at 2007-10-14 23:43
↑鍵コメさん

わかりました。(`_´)ゞ了解!

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