『墜落遺体――御巣鷹山の日航機123便』(飯塚訓)

b0037269_103278.jpgこういうことを言うと叱られるかもしれないが、人の命日をほとんど覚えない。かわいがってくれた人たちの命日でさえしっかり覚えていなくて、通り過ぎそうになったら、周りの人が教えてくれて、あぁそうだったな、と思い出す。ぼくは人が “いつ” 死んだのかということにはほとんど興味がないのだ。お許しください。

ただし、命日というわけではないが、多くの方が亡くなったある事故の日については、どういうわけか、どうしても忘れることができずに、毎年思い出す。23年前の今日。日航123便の墜落事故の日だ。



その日、ぼくは友人たちとのはじめての海水浴に興じていて、そのあまりにも楽しかったことを昨日のことのように覚えている。海から遠く隔たったところに育った人間たちが、はじめて友だち同士で海水浴に行った日なのだ。楽しくないはずがないではないか。ぼくらは、これ以上ないというぐらいにはしゃいでいて、すこしセピアがかった写真の中では、楽しそうな友人たちとともに、カメラの前で表情を作るのが絶望的なまでに下手なはずのぼくが爆笑している。お腹がよじれて苦しいぐらいに笑っていたのだった。

それを撮った後、多くの乗客を乗せた日航機が消息を絶ったことが重苦しい雰囲気で伝えられていた。ただならぬ気配には気づいたが、23年前の今日の記憶はその場面でぷっつりと途切れている。その後、墜落後の惨状を見たり、ダッチロールを繰り返す飛行機のなかで懸命に墜落を避けようとしていた操縦士たちの声が流されたのを聞いたりして、ぼくが喜びの絶頂にあったとき、極限の状況にあった人たちがいたことを知った。万策尽きて、機長が漏らした言葉が頭から離れない。「これはだめかもわからんね」。

そうしたことの罪滅ぼしのつもりであったのだろうか、それとも、不徳の好奇心からだったのであろうか、ぼくはこの本を手にとることになった。衝撃だった。その衝撃は、読者を驚かせようと創作されたようなものなのではない。誠実な著者はありのままの事実を書いたまでなのである。読み通すことを頑なに拒否する圧倒的な事実のなかで、それを読み通すことをかろうじて可能にしたのは、墜落現場や身元確認作業現場で働いた人たちが垣間見せた人間の可能性であったと思う。極限の悲しみとはどのようなものか、人が人に対して己が身を粉にしてまでも尽くすとはどのようなことか――それを、確かにこの本は教えてくれる。

とはいえ、ぼくはこの本をひとりの学生にも薦められないでいる。

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by enzian | 2008-08-12 10:58 | ※好きな本 | Trackback | Comments(6)

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Commented by 毒きのこ at 2008-08-12 21:51 x
壮絶な現場に、生死・情熱・落胆・希望・諦め・・・同時に両極端なことが存在した時に、それにかかわる人もまた、残酷・救いなど、結果として願うことができない現実を突き付けられるのですね。

もし自分がどの立場にせよ、かかわっているとしたら・・・張り裂けてしまうのではないかと、恐る恐る想像します。

当時は中一で、テレビをずっと見ていました。深いことはわからず、ただ映像を目にしているだけでした。ただただ何も言えずに。


*こちらで紹介されている本も参考資料として扱ったという映画を、この間たまたま観てきました。
Commented by enzian at 2008-08-12 22:54
毒きのこさん

うん、張り裂けそうな現場であったようですよ。
かかわった人のなかにも、すぐに寝込んでしまってダメになった人も
多い、と書いてありました。それは、そうでしょうね。

でも、そうした壮絶な現場でも、
さまざまなプロの方が見事な仕事をなさったことがこの本には書かれています。
それが胸をうつのです。

映画になっているのですよね。
話だけは聞いているのですが、観てはいません。
毒きのこさんはけっこう映画を観てるんですね。^^
Commented at 2008-08-14 22:02 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by enzian at 2008-08-14 22:22
鍵コメさん

ふ~ん、知り合いといっても、遠い人なんでしょ。
もし遠くない人がいてそれをいままで隠しているというのであれば、
ちょっと理解しがたい家族ですからね。

個研には、学生の目のつきやすいところに置いてあります。
大学生ぐらいであれば、自分で希望して読むのはよいでしょう。
しかし、読むことをすすめることはしません。
ハートにくる人がいるでしょうからね。

クライマーズ・ハイはいいですね。
Commented at 2008-08-16 02:02 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by enzian at 2008-08-16 10:27
鍵コメ2さん

了解。

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