山と釣りの本

個人的には大のお気に入りなのだけど、きっと誰も知らない、説明したところで、多分誰も読まない、仮に読みたい人がいても、すでに絶版で入手のしようのない本たちの紹介です。こういう非生産的な営みが、たまらなく愉快、愉快。

b0037269_21413370.jpg『山がたり』(正・続・続々)(斐太猪之介、文芸春秋、1967・71・72年)

斐太は生涯、ニホンオオカミの生存を信じ、追い求めた。後述する山本が語る山人が杣人(そまびと)なら、斐太が語るのはマタギ。文学としては山本に及ばず、また思い込みが強すぎて追随できないところもあるが、マタギと山の動物との関係が詳細に語られる。私が特に好きなのは、続々編のうわばみ(大蛇)にまつわるエピソード。今でも、その箇所だけときどき繙く。絶版。斐太には『山中奇談』(みき書房、1975年)という希少本がある。


b0037269_2142738.jpg『逃げろツチノコ』(山本素石、二見書房、1973年)

かつて日本全国に「ツチノコブーム」が吹き荒れたが、その火付け役になったのがこの書。ツチノコのバイブル。後にいいかげんなツチノコ研究家が書いた本は、多かれ少なかれこの本の盗作。このような未知の爬虫類!が実在する可能性に、少年はどれほど胸をときめかせたことか。絶版。


b0037269_21424069.jpg『釣山河』(山本素石、二見書房、1975年)

釣りの文学と言えば、日本では、井伏鱒二とか開高健が有名どころだろうか。井伏は論外として、開高健の『オーパ!』(集英社文庫、1981年)は、アマゾンの熱気とねっとりとした開高の欲望が絡み合い、渾然一体の世界を醸し出した名著だが、いかんせん影がない(ちなみに、続編にはそうした欲望すら見えない)。釣りの本と言えば、私は山本素石を選ぶ。釣りはどす黒い欲望の世界、命を弄ぶ。欲望は影を伴うものなのだ。ただし、山本の本は、単なる釣りの世界だけではなく、彼が深山幽谷の渓流釣りをこよなく好むことから、都会の日常から懸隔された山人の世界をも描き出す。山人の世界を描いて山本の右に出る者はいまい。山本自身による版画の挿絵も、独特の世界を引き立てている。

本書は、すでに廃刊された月刊誌『釣の友』(釣の友社)に、同名にて1965年1月から147回にわたって掲載されたものの一部、絶版。入手は困難だろう。この書に限らず、山本の著作は『山本素石の本』1~4(筑摩書房、1996年)に収録されたが、これも絶版。私は小学校から中学校時代にかけて、半分は山本(と後述の福島さん)の文章が読みたくて、『釣の友』を定期購読していた。


b0037269_2143339.jpg『釣影』(山本素石、アテネ書房、1980年)

山本の私小説。釣りに興味のない人も読める文学作品。間違いなく名著だが、これを知る人はほとんどいないだろう。絶版。後に『つりかげ』(PHP文庫、1992年)として再版されたが、これも絶版。


b0037269_21433926.jpg『釣れなくてもよかったのに日記』(正・続)
(福島昌山人、釣の友社、1982・91年)

福島は、東本願寺の西側にある福島病院の元院長。山本の『釣山河』と同様、『釣の友』に同名のエッセイを掲載していた。山本の「影」が強すぎて息苦しいときに、こちらを読んだ。ただし、福島の文章にもしっかり影がある。島田アツヒトさんによる挿絵も、福島の文章と一体になっていて、味わい深い。続々編をずっと待っていたが、釣の友社が倒産した今では、それもかなわない。最も好きな本の一つ。絶版。

by enzian | 2005-03-21 22:02 | ※好きな本 | Trackback | Comments(2)

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Commented by ひろりん at 2013-02-15 23:26 x
tつれなくても、、、昌山人の本何かの。そぞろ、に、読み返すb
島田アツヒトさんの名前が、ある。へえーーの思い
あの
昭和が、、自分の想い出が確かに。その名前お見て,思いだしました、、何ですか、人と言うのは、孤独で寂しくて、昔お
大切に。する者なんかねー。と。ふと
想わせた、。そんな事で我流で、始めたテンカラも。10年目。
偶然たち
止まったブログのページ、、今度湖北の。菅浦に行こうと思います。雪の深いうちに、。

Commented by enzian at 2013-02-23 23:13
ひろりんさん

どうと管浦に行って下さい。
雪の深いうちに。。。

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