2006年 03月 15日 ( 1 )

冬虫夏草の恐怖

16世紀の朝鮮王朝を舞台とする韓国のドラマを見ていたら、薬膳の材料として冬虫夏草(とうちゅうかそう)が出てきた。いつだかった、ヒマラヤに近いところに住む人たちが薬草として採取しているのをテレビで見たことがあったが、ずいぶん昔からアジアの広い地域で薬効のあるものとして考えられてきたらしい。

「冬虫夏草」というのはバッカクキン科冬虫夏草属の菌類、キノコの一種なのだが、昆虫やクモに寄生してそれを養分として育つ変り種で、400種類近くが確認されている。ハチタケ、アリタケ、カメムシタケ、オサムシタケといったノーマル(?)なものから、ニイニイゼミの幼虫からしか生えないセミタケ、ツクツクホウシから生えるツクツクホウシタケ、アブラゼミやエゾゼミ専門のオオセミタケなど、特定の昆虫に特化したものも多い。キノコの研究はほとんど進んでいない状態だから、冬虫夏草も実際にはもっとたくさんあるのだろうし、ひょっとすると、ほとんどの昆虫の種にそれに特化した冬虫夏草があるのかもしれない。

ある種の冬虫夏草の寄生の仕方はおもしろい。空気中を漂っていた胞子は昆虫に付着するやいなや麻痺状態にするらしいのだ。麻痺状態だから昆虫は腐敗しない。ヤンマタケなどはヤンマ(トンボの種類)が木の葉にとまったそのままの状態で生えている。アリタケなどは隊列を組んでいたアリたちの位置関係そのままに生えることがある。卵の状態の幼虫に他の昆虫を餌としてやるタイプのハチには、(卵が幼虫となって餌を食べつくすまで餌が腐敗しないよう)この手の芸当をやるのがいるけど、それは針でチクリとやるわけだから、麻酔注射よろしくわかりやすい。だが、冬虫夏草の胞子が一瞬のうちにどうやって巨大な昆虫を麻痺させるのか、はよくわからない。まったく不思議だし、昆虫にとっては世界とはなんと恐怖に満ちているのかと思う。知らぬ間に付着した微小な胞子一粒に麻痺させられ、生きながらにしてキノコにされてしまうのだ。幸い、哺乳類に寄生する冬虫夏草はまだ見つかっていない。

by enzian | 2006-03-15 22:59 | ※自然のなかで | Trackback | Comments(18)