<   2007年 04月 ( 4 )   > この月の画像一覧

円(まど)かな声

「は~い」。ノックしたドアから聞こえてきた声にはっとした。その「は~い」が円かだったのだ。いったん浮かび上がった声が、半円を描いてふんわり舞い降りてきたかのような。ドアを開ければ、果たせるかな、やさしい笑顔があった。「な~に」。「ちょっとよろしいですか?」「い~よ」。なんでも話せそうだ。

ぼくなら、そんな風には答えない。「ハイドウゾ!」前のめりの声は高速の矢印となり、まっすぐ正確に訪問者の心臓に突き刺さる。パソコンに向かっていたぼくはすかさずドアの方を向き、“戦闘態勢” をとる。「ナニ?(イッタイナンナノ?)」入ってくる人を見据え、用件が切り出されるのを待つ。訪問者はすでに萎縮し、話す言葉を失っている‥‥

by enzian | 2007-04-20 23:33 | ※キャンパスで | Trackback | Comments(17)

『無人島に生きる十六人』(須川邦彦)

b0037269_1693395.jpg無人島が好きということもあってか、事実に基づいた漂流記が好きです。いったいこれまでどれほどたくさんの方々が漂流し、命からがら絶海の孤島にたどり着き、ぎりぎりの生活をしながら、何年、あるいは何十年の望郷の思いを胸に抱きつつ、願い叶わず死んでいったことか‥‥。失礼しました。今日はそういう話は書かないのです。

というわけで、ここでは、しゃれこうべだらけの吉村昭の『漂流』や、読むからに寒いシャクルトンの『エンデュアランス号漂流記』(全員帰還したけどね)は漂流記の名作とわかっていてもその辺にうっちゃっておいて、この本をご紹介します。楽しく読めるからです。読めば元気になること、受け合いだからです。

これからお読みなるつもりの方は、開かない方が。

by enzian | 2007-04-14 16:54 | ※好きな本 | Trackback(1) | Comments(18)

いずれ手のひらを返す。

オウム真理教事件の余韻もいまではすっかり消えてなくなって、テレビはまた朝から深夜まですっかりオカルト盛りになっている(ここでオカルトとはなにか、という説明はしない)。ふんぞり返った占い師にしても、ゴージャスなスピリチュアル師(?)にしても、“とんでも科学” をまくしたてて欲望を刺激するエセ科学師(?)たちにしても、いずれ馬脚をあらわす。それはいいにしても、ぼくがむしろキライなのは、そういう人たちをあるときいっせいに告発して、集団で非難キャンペーンをはじめるというやり方だ。

流れ出る甘い汁はみんなで吸っておいて、旗色が悪いと見るや手のひらを返したように同じメンバーが告発をはじめる。はしごをかけて「さぁさぁせんせい、どうぞお上りください」とおだてて屋根へ上らせておいて、とつじょはしごを取り去って、屋根に残された人の顔に向けていっせいに石を投げつける。そのとき、誰が屋根に上げたのかはすっかり忘れている。そういうのが恥ずかしいことだとつねづね感じているので、そもそもそういう怪しげなモードにははじめから乗らない、と思っているが、しっかり乗っかっているのかもしれない。

by enzian | 2007-04-07 13:59 | ※テレビ・新聞より | Trackback | Comments(18)

負けを認めること

NHKのBSで『あしたのジョー』特集をやっていて、夢中になって見てしまった。子どものころは毛嫌いしていたアニメなのに、どういう心境の変化なのかと思いながら、画面にかぶりついていた。もちろん、いくつになってもキライなものはキライだ。孤独、不信、暴力、嘔吐、罵声、怒号、汚れ、貧困、流血、死、そして、総じて男とはこうあるべきだというステレオタイプの “男観”‥‥。幾つになってもそういうものをすんなり受け入れることはできないけれど、なにがそんなに惹かれるのかと考えていたら、矢吹丈にしても力石徹にしても、けっこう負けることに気づいた。いつもいつも放送時間残り時間5分で大逆転勝ちを収める常勝主人公には飽きてしまう天の邪鬼なので、これは嬉しい。

でも、矢吹や力石が負けることなど、昔から知っていたはずだ。今回、惹かれたのは、矢吹や力石が負けるだけでなく、彼らがその負けを認め、同時に、ぎりぎりの努力をもってしてもかなわない相手のとてつもない強さを称えていることに気づいたからなのだ。8回戦で力石に敗れた矢吹に段平が、同時代に力石のようなボクサーがいることはわれわれにとって不幸だ、というようなことを言ったときの矢吹の答えは、かつての救いようのない荒くれ者の印象のかけらも感じさせないものだった。「ちがう。そういう立派なボクサーと闘えたことを心底幸せだと思う」。敗北は相手に対する優先権の “喪失” なわけだけど、心から負けを認めるとき、すでに敗者は勝者から少なからぬ影響を受けているのであって、多くのものを得ているのだと思う、と言えば、あまりにも当たり前か。

難易度:中の下(虫がお嫌いな方は、開かない方が‥‥)

by enzian | 2007-04-01 22:48 | ※テレビ・新聞より | Trackback | Comments(29)