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安心

b0037269_20461361.jpgここ何日か、寝る前にくりかえし見て、聴いている動画がある。「日本 映像の20世紀」のオープニングテーマだ。音楽、映像の全体が好みなのだけど、特に最初の部分に映っている少年と少女が、切なくて、かわいらしくて、しかたない。

少女は少しお姉さんなのだろうか、この状況、もういったいどうしたらいいの‥‥とばかりに、ちらりと少年を見て、肩を揺らしながら照れている。少年も照れている。2人は手をしっかりつないでいる。手をつなぐって特別なことだもんね、どうしてかはわからないけど‥‥。

ずいぶん古そうなフィルムだが、いつのものなのだろう。いまごろ、2人はどうしているのだろうか。ひょっとすると鬼籍の人なのかもしれない。これはとても思い上がったいいかたなのだけど、自分の知らない時代にも、ほのかな照れがあったのだ。悲しいこともあったにせよ、楽しいことや、どきどきすることがあったのだろう。そう思うと、なぜか心が安らぐ。

by enzian | 2008-02-17 22:43 | ※その他 | Trackback | Comments(4)

新世界

b0037269_11242360.jpgごちゃごちゃ加減ががまんならなかった。不潔な側溝に目を背けたくなった。作り置きした料理をケースからとって食べる父がいやだった。他人が握った寿司が好きではなかった。真っ昼間から博打に興じる人たちに吐き気をもよおした。異形の人たちに恐怖を感じた。すれ違う人にぶつからないよう、身を縮めるようにして歩いた。

そんな街に行きたくなって、いてもたってもいられなくなった。じゃんじゃん横町は心なしかさびれていたが、通天閣に通じる通りは、あの頃よりも華やかになっている。たこ焼きを食べ、串カツを食べ、通天閣に登って街を見下ろした。ありんこのような人たちを見ながら、なぜまた来たくなったのか、なぜいまこの街に心ひかれるのか‥‥と考えていた。楽しいのだ。目に入るものすべてが新鮮で、わくわくさせるのだ。ぼくはごちゃごちゃした街を撮った。

インドもそうだった。帰ってすぐは、あんなごちゃごちゃして油断ならないところ、二度と行くもんかと思ったが、いまではすっかり懐かしくなっている。時が感情を濾過してくれたのだろう、その濾過はときにぼくを苦しめもするけど‥‥。といっても、時間という物がぼくの外にあるわけではない。それはぼくの内側にあって、きっとぼくの一部分を占めているものなのだ。だから、ぼくは自分で自分を、なかなか地道によく頑張っておる、えらいぞ、立派だ、と褒めてやる。

by enzian | 2008-02-10 10:32 | ※街を歩く | Trackback | Comments(27)

まんざらでもない。

かなり疲れている。ふらふらなのである。年末から一日も休まずに仕事を続けているのだから、まぁしかたがない。ほんとうに世の中の人たちはこんなに忙しいのだろうか?などと思っているが、知らないだけで忙しいのだろう。誰も、人の忙しさなぞ、わかりはしない。

忙しくて本を読むこともできなくなるたびに、あり余る時間があった学生のころに勉強をしておけばよかったと思う。ちょっぴり学生がうらやましくなるときだ。でもたぶん、あと5年もすれば、5年前はあんなに時間があったのに‥‥などと後悔しているにちがいないのだ。ぼくの場合、時間を使いこなす技術の取得が時間の流れに追いつかず、いつも3年ほど遅れをとっている。

「不条理だ!」「なぜ自分が?」と思ったことは、山ほどあった。しかも、きっとこれからもあるにちがいないのだから、始末に負えない。またはじめから、一歩一歩、えっさほいさと登って行かねばならないのだ。ただ、そのときそのときに、呻(うめ)きもがき苦しんで自分がやらざるをえない取り組みがあるということ、そのこと自体はまんざらでもない。

by enzian | 2008-02-05 20:15 | ※キャンパスで | Trackback | Comments(0)

屋根の雪

b0037269_22351236.jpg大雪の日だった。ぼくは何度も何度も転びながら、救急車を追いかけ、小さな自転車で町の病院へかけつけた。

母はついぞなにも話しかけないまま、朝方、逝った。ぼくらは喧嘩をしたまま永遠の別れを告げたのだ。「ごめんなさい」の一言が言えなかった。もう仲直りすることはできない。

やけに流暢な葬儀屋のスピーチを聞きながら、母との長い長い葛藤の日々を思っていた。ぼくはたしかに母の死を何度も願ったことがあったのだ。庇(ひさし)からどさりと雪が落ちた。真冬には珍しい暖かい日が射して、屋根に残った雪から湯気が立ち上っている。一昨日、あれほどぼくを苦しめた雪も、いまは蒸気となってゆらゆらと空へ昇っていくのだった。

by enzian | 2008-02-01 22:07 | ※山河追想 | Trackback | Comments(0)