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抜け殻

「先生は相変わらず忙しいですか?」またこんな言葉ではじまるメールが卒業生から届く。そうか、この学生が4年生のときにこの仕事がはじまったのだ。会議があるから‥‥と何度も面談を断ったことを思い出した。まれに面談ができても、ぼくの心は学生の前にはなく、いつも次の会議室にあって、司会進行のことばかりを考えていたのだった。たまに話すことができても、学生が話していたのはぼくではなく、ぼくの抜け殻だった。

ひとつの組織に所属する限り、ぼくもまた、自分の好きなことばかりしているわけにはいかず、時には、直接には教育や研究にかかわらないことを引き受けねばならないことはよくわかっている。この仕事もまたいつか終わるだろう。現に今日、その山の一つは越えたのだ。だがしかし、それがぼくから奪い去ったものはあまりにも多い。

by enzian | 2008-10-23 21:38 | ※キャンパスで | Trackback | Comments(8)

菩提樹

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by enzian | 2008-10-23 21:18 | ※その他 | Trackback | Comments(20)

ほととぎす

一息ついて、日の当たりにくい庭の一角を見れば、紫色があった。ほととぎすが咲いているのだ。しゃがみ込めば、日本の野花とは思えない色柄、姿形をしている。自分が植えたものがようやく時を得て花を咲かせているのに気づかないとは、無責任なことだと思う。

この夏、ほととぎすには一匹の毛虫(ルリタテハの幼虫)がついていて、そいつは見る見る間に一株のほととぎすの葉を食べ尽くしてしまった。なんとかすることはできたが、ぼくは一匹の毛虫を駆除するのが忍びなくて、ほとどぎすが食べられるままにしたのだった。ほととぎすを捨てて、虫をとったのだ。

毛虫は蝶となって飛び去り、葉無しとなったほととぎすはまるでなにもなかったようにたくさんの花を咲かせていた。対立する価値が両立することが自然のなかではあるのかもしれない。ほととぎすにすれば、ルリタテハの幼虫が葉を食べ尽くすことぐらい織り込み済みなのだろう。織り込み済み――ほととぎすにはできても、ぼくには容易なことではない。

by enzian | 2008-10-18 23:09 | ※自然のなかで | Trackback | Comments(4)

その横顔

ある宗教的な行事の一プログラムとしておこなわれた講演での話。一群の学生たちが座っている一角があって、なにかの授業の振り替えになったらしいことがわかる。講演に先立って、ある種の読経のようなものがおこなわれる(四弘誓願‥‥修行者が仏となる道を選ぶときに最初に立てる四つの願いのこと)。ぼくは僧侶でもないので、なにやら場違いの居心地の悪さを感じながら、誓いを立てる人たちの声を聞いている。

一群の学生たちのなかに、とりわけ熱心に唱えている人がいた。背筋を伸ばし、懸命に喉を震わせている。後ろ姿を見れば、髪型、服装‥‥きわめていまどきの女性だ。ぼくの目は釘付けになった。寺院に生まれた人なのだろう。読経し、手を合わせる彼女のさまは、どこまでも自然体なのであった。いくつになってもぎこちなく、自然に手を合わせることのできないぼくはじっと手のひらをみた。それはたんなる育ちの違いなのか、それとも、それ以外の理由によるものなのだろうか。

講演がはじまる。講演者は同僚。これが目的でここに来たのだ。ひとりの人間として話す私の声をあなた方もまたひとりの人間として聞いて欲しい――そう語りかける声が聞こえた気がした。残念なのは一部の学生たちの態度。講演の最初から居眠っている者がいるのだ。講演の内容がつまらないから眠るというなら仕方ない。それは話す者の拙さによるものなのだから。だが、最初から聞く耳をもたぬ態度がいかに話す者を傷つけるか‥‥それは、壇上に立った者にしかわからない。

暗澹(あんたん)たる気分になりはじめたとき、はっとした。さきほどの女性が、居眠りをして斜め45度に傾きはじめた人たちを懸命に起こそうとしているのだ。一度起こしてもすぐまた眠ろうとする人たちを突(つつ)き続けて眠らないようにしている。二列前の手の届かない学生たちには一列前の人たちに頼んで、眠らないように働きかけるよう頼んでいる。自分の利害にしか興味を示さぬ者が多いにしても、この学生は人の痛みのわかる人なのかもしれない。ぼくはその学生がどんな顔をしているのか、見てみたくなった。

by enzian | 2008-10-17 23:29 | ※キャンパスで | Trackback | Comments(3)

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一個は渋柿で一個は甘柿でした。

by enzian | 2008-10-12 22:41 | ※写真 | Trackback | Comments(6)

リーダー

どこぞの小学校の案内を読んでいたら、「未来のリーダーを養成する」と書いてある。すごい小学校があったものだと驚く。いったいどんなカリキュラム(授業編成)なのだろうか?いやカリキュラム内容よりも、校舎をヨーロッパの宮殿風、給食は三つ星店シェフに作ってもらって、学費をバカ高くすればそれなりの社会的地位をもった親の子どもしか入学できないから、おのずと2世として、いずれそこそこのリーダー的立場になるだろうなどと、どす黒いことを考えている。根がどす黒いから、こんなことを考えるのはお手のものなのだ。

リーダーというのはどういう人なのだろう。数歩離れてリードひも引っ張る御主人よろしく、引っ張られる者とのあいだに主従関係(命令する者と命令に従う者の関係)があって、圧倒的な能力の差があって、立場の差がある、特別に選ばれた者のことを言うのだろうか。だとすれば、ぼくがそういう人に心惹かれることはない。ぼくが好きなのは、いつも人のなかにあって、頼まれもしないのに他人のことをあれこれ考えて、人より多く抱え込んで、人より多くの責任を感じて、果たせなかったと人より多く悩んでいる不器用な人。

by enzian | 2008-10-12 21:58 | ※好きな人・嫌いな人 | Trackback | Comments(16)

本を読むと眠くなる。

ぼくが勤めているのはそれなりに本を読む学部なのだが、それでも、本を読むと、文字を見ると眠くなる、という学生はいる。「絵本ならいいのに‥‥」などと言っておる。読まないとはじまらないので、なんとか読んでもらおうとするが、うまくいかない。

少し前まで、ぼくは読まない理由がたんなる怠惰だと思っていた。だが、このごろはそうとばかりは言えないと感じるようになってきた。読まねばならない本があることなど、当人の方がよくわかっている。怠惰だから眠くなるのではなく、読もうにも読めない人がいるように思えてきたのだ。ただ、いまはそう感じるだけで、なにも詳細はわからない。

by enzian | 2008-10-11 23:46 | ※キャンパスで | Trackback | Comments(11)