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「。」の必要性

勤めている学校の高校生向けのキャッチフレーズには「○○が大好きです。」というのがある。ここでは仮に「スヌーピーが大好きです。」だということにしておくと、この表現の最後の「。」が必要かどうかが、とある書類をつくる会議でちょっと問題になった。どうして問題になるかというと、「 」(カギ括弧)を使って文中に引用をする場合、(いくつかの例外があるけど)原則として引用の最後を句点(つまり「。」)にしてはいけないというルールがあって、「スヌーピーが大好きです。」という引用を文中に入れてしまうと、ルール違反を犯すことになりかねないからだ。つまり、以下のような文章はちょっと問題なのですね。

ひっそり山のりんどう峠を越えて、さかなうじゃうじゃ川を見下ろす山の斜面には小さなenzian大学が乗っかっていて、そこのキャッチフレーズが「スヌーピーが大好きです。」であることなど、森の動物たちであれば誰でも知っている。

そこで、そのような “ルール違反” を避けるために、賢明なるぼくの同僚は「。」を削除して「スヌーピーが大好きです」にしたらどうか、と提案した。だが、ぼくは「スヌーピーが大好きです。」と「スヌーピーが大好きです」ではまったく意味が違ってくる、と反論した。両者を以下に並べてみる。

「スヌーピーが大好きです。」
「スヌーピーが大好きです」

で、相手が哲学の同僚だということもあって、「違う」と言ったからにはどう違うのかをすぐさま説明せねばならぬことになるのだが、困ってしまって、苦し紛れに、「最後に『。』があることによって、『ふんわりまとめる』という意味が加わるからです。このキャッチフレーズはそうした効果を狙ったうえで最後に『。』を付けているのだと思います」と答えた。答えた後で「ふんわりまとめる」の意味が不明だと思ったが、同僚はそれ以上ぼくを問いつめ、追い詰めようとはしなかった。そこそこで逃がすことも大切なのである。

by enzian | 2009-07-25 19:57 | ※キャンパスで | Trackback | Comments(26)

雨に濡れる

b0037269_23571275.jpg雷が鳴って、横なぐりの雨が降っている。この雨が上がれば、いよいよ梅雨明けか。学校では梅雨明けを待ちきれないセミたちがジージー鳴いていた。雨のなかセミたちはどうしているのだろうか。羽を濡らして難儀してはいないだろうか。

セミのことは知らないが、けっこうな雨に祟られて濡れ鼠(ねずみ)になるたびに、傘にしても合羽にしても、どうしてこう雨を防ぐ効果が低いのかと雨男は恨み言のひとつもいいたくなる。

長い長い人間の歴史のなかで雨はいつもついてまわっただろうし、そのあいだにはいくらでももっと効果的な雨具を考えることもできただろうに、これさえあれば絶対に濡れない!といった “究極の防雨アイテム”――ポータブルな防雨空気層とか風船状の防雨アイテムとかね――が考案されそうな気配はない。天下のATOKでさえ、「ぼうう」と入力して、「防雨」という変換候補を吐き出すことはないのだ。たぶん、誰も、雨に降られることが心底嫌いなわけではないからなのだろうが、なぜ嫌いでないか、は考える余地がある。

小学校のとき、ちょっとアホな同級生がいて、ある日、大雨のなかを傘もささずに走って帰っていた。「なんで傘ささへんねん?」と聞いたら、「それの方がカッコイイやんけ」といいやがった。アホな友だちの一言だったけど、いまいましいことに、いまも覚えている。

by enzian | 2009-07-19 23:19 | ※その他 | Trackback | Comments(0)

蚊帳

小学校のころ寝ていた部屋の上の四隅には釘のようなものが打ち付けてあった。釘は茶色くさびていて、ほこりがたまっていた。無造作な打ち付け方から、部屋にはもともとそのような釘はなく、あとから誰かがなにかのために取り付けたであろうことはわかった。でも、あれこれ考えて、なんのためなのかはわからないまま、いつも知らぬうちに夢の世界に入ってしまうのだった。

夏になると、ときどきカルピスを飲みたくなる。できるだけ長細くて透明のグラスに原液と水、そして氷を入れる。氷の入ったカルピスをマドラーでかき混ぜる。氷がグラスに当たって、カラカラと乾いたような澄んだ音を出す。ぼくにとってはこの音がカルピスの味の一部であり、夏の音なのだ。

カラカラという音に耳を澄ましていたら、長く忘れたままでいた、小学校のころよりもっともっと前の光景が不意によみがえってきた。部屋には黒いベールがかかっていて、夏用のシーツがひいてある。黒いベールは蚊帳(かや)なのであった。蚊帳のなかには言いようのない安心感があった。蚊帳の隅はたしかに四つの釘で留められていた。

インドの蚊帳の写真があったので(コメント参照)‥‥

by enzian | 2009-07-11 19:40 | ※山河追想 | Trackback | Comments(32)