
ちょうど羽虫(はむし)が羽化する時期のようで、浅場のいたるところで鮎が跳ね、それまで蒼い鏡面のようだった湖面には、にわかに銀色のざわめきが立っている。最終バスの時間が近づいて、どこからかコロッケを揚げる匂いが漂ってきた。昼間いたブラックバスの釣り人たちはもういない。
この石のベンチに座って星を見上げられればよいだろう。視線のまっすぐ先には対岸があって、大津にまで連なっているはずなのだが、それはあまりにも遠く霞みの彼方に横たわっている。菅浦に来てやっと埋まったと安堵した想いのかけらだったが、けっきょく新しいかけらをまた生み出したのだった。次は空気の澄んだ冬に来よう。瞬く星空が美しいにちがいない。
駅舎のツバメの巣には両親が戻ってきていて、6羽がぎゅうぎゅう詰めの団子になって眠っている。永原からしばらく、湖西線の車両はがらがらの貸し切り状態だった。 (了)