身の周り半径5メートルほどにある、なにげない日常をささやかに見つめ直します。


by enzian
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2006年 06月 17日 ( 1 )

不思議な体験

b0037269_2130484.jpg長く生きていると、これは不思議だなぁと思う体験をすることがあります。これは、その昔、母と叔母ともう一人誰か(思い出せない)とでホタルを見に行ったときの話です。ぼくの郷里ではホタルなどどこにでもいて、農業用水路から水をひいていた実家の小さな池にさえいたのですが、その日はどういうわけだか、自宅から離れた田んぼまで出かけたのでした。

ホタルに満足した4人は、なにやらしゃべりながら帰りの道を歩いていたように思います。ホタルは草むらにいますし、蛇が怖いということもあって注意はおのずと足元に向かっていたはずなのですが、なぜだかそのときだけ4人が前もって示し合わせたように夜空の一点を見上げたのです。山側の西の空には雲がひとつだけ浮かんでおり、一瞬、その雲からとてつもなくまぶしい光が漏れ出て、すぐ消えました。車のヘッドライトの反射とかそういうものではありませんでした。それまでの経験したことのない光であったことは、4人が思わず「あっ」とか「うっ」とかいう声にならない声を漏らしたことからも明らかでした。

怪しい光の正体が気にならないと言えば嘘になりますが、それよりもっと不思議だったのは、4人がその一瞬だけ夜空を見上げたことでしたし、光を見た後の帰り道で誰も光のことに触れなかったことでした。そして、ついぞ、その話は話題になることがなかったのでした。ぼくも聞いてはならないような気がして、聞かないまま、いつしか何十年かの年月が流れました。母はすでに鬼籍の人となり、叔母とはすっかり疎遠となってしまった今では、あのまぶしい光がなんであったかは確かめようもないことです。確かめようにも、手がかりは深い霧の向こうにすぅーっと消えて行ってしまう――不思議な体験とは、往々にしてそういうものなのでしょう。
by enzian | 2006-06-17 19:40 | ※山河追想 | Trackback | Comments(35)